本編を超える美しい結末を魅せる古書ミステリーの新作『ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~』感想文と本の紹介|三上延

ビブリア古書堂の事件手帖 ~扉子と不思議な客人たち~ (メディアワークス文庫)

三上延『ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~』を読んだ。

この作品は『ビブリア古書堂の事件手帖-栞子さんと奇妙な客人たち』から始まり、すでに完結したビブリア古書堂シリーズのスピンオフ(番外編?)のような作品で、今までのシリーズとは少し違った雰囲気を醸し出している一冊になっている。

厳密に言えば、前作『ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~』が終わってから6年の時間が経過した実質的な続編といってもいい作品だ。

元々ビブリアシリーズは読んでいたのだが、綺麗な形で完結していたと思っていたので、これ以上のシリーズは蛇足なのではないかと思い、嬉しさ半分、怖さ半分の心持ちで手に取ってみたのだが、それは杞憂に終わった。

何と素晴らしい結末だろう。

むしろ、この作品こそがビブリアシリーズの本当の完結にふさわしい物語なのではないだろうか?これ以上美しい結びなどあるのだろうか?

そんな絶賛ばかりが浮かんでくる、素晴らしい結びの物語『ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~』のネタバレ感想を書いてみたいと思う。

ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~

ビブリア古書堂の事件手帖
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あらすじ

ある夫婦が営む古書店がある。鎌倉の片隅にひっそりと佇む「ビブリア古書堂」。その店主は古本屋のイメージに合わない、きれいな女性だ。そしてその傍らには、女店主にそっくりな少女の姿があった―。女店主は少女へ、静かに語り聞かせる。一冊の古書から紐解かれる不思議な客人たちの話を。古い本に詰まっている、絆と秘密の物語を。人から人へと受け継がれる本の記憶。その扉が今再び開かれる

ある夫婦というのはもちろん栞子大輔のこと。

そして女店主にそっくりな少女というのは二人の子供である扉子の事だ。

二人の子供の扉子の”扉”という文字に合わせて本の記憶の扉が開いていくようなストーリー展開は、ワクワクさせてくれる。

感想

前作のラストから6年後のビブリアのスピンオフ的作品。

栞子と大輔がめでたく結婚して娘の扉子が誕生していて、その扉子に本にまつわるエピソードを語っていくストーリーになっている。

過去作品にも登場している志田小菅奈緒坂口夫妻なども登場して新しい物語を紡いでいくが、それらの物語を栞子が扉子に対して話していく様子は微笑ましく、2人が仲睦まじく同じ時間を過ごしている様子が嬉しくて、もう一度すべての作品を読みなおしたくなってしまった。

やっぱりシリーズを読んできた身としては感慨深いものがある。

栞子の話を嬉しそうに聞いている扉子が、聡明さと元気さを兼ね備えているのが嬉しい。

また後述するが、その性格に関しても篠川家の血が強く発揮されているのもファンとしては嬉しい部分だ。

ミステリー部分に関しては、扉子に聞かせているという話の流れなので、話自体はそこまで悪意に溢れている物は少なかったものの、それでも人間が生み出す悪意や弱さというのは知らないうちに忍び寄ってくるということがよくわかる内容になっていた。

個人的には小菅と志田が登場した第三話 佐々木丸美『雪の断章』の話が好き。

自分の目的を果たすために相手を騙したりものを盗んだりした所で、のちにそれが後悔に繋がるような生き方をするべきではないのだが、その瞬間に、正確に生き方を判断することなどできないのかもしれない

お互い心に小さな後悔を持っているから通じられる感情もあるのだろう。

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扉子の性格

栞子と大輔の娘である扉子は読書が大好きで片時も本を手放さない。そのあたりは篠川家のDNAを強く受け継いでいるのは間違いない

人と話すよりも本を読んでいることに価値を見出しているところは、独特の感性ではあるが、少なくとも栞子や篠川智恵子との血縁関係が色濃く反映されているように見える。

しかし、同時に扉子の性格のみに着目した場合、妙に明るく人見知りをしない部分などは、栞子というよりもどちらかというと文香の性格に似ている気がする。

また、好奇心旺盛で来客に積極的に話しかけたりする様子も、おそらく栞子にはない一面のように思える。

篠川家の読書狂いな一面に文香の社交的な一面がプラスされれば、天下無敵の跡継ぎが誕生しそうで将来が楽しみだ。

探している本とは何か?

今作の大きな縦軸として、出張で外出している大輔がどこかに置き忘れたという本を、栞子と扉子が探すという大きな流れがある。

ただし、大輔と栞子の二人はその本の存在を扉子に見つかりたくないという制約付きだ。

一体何の本を置き忘れたのか?

また、なぜその本を扉子にみせたくないのか?

それらの疑問と共に物語は進んでいき、栞子は様々な本にまつわる話を扉子に聞かせつつ最終的には栞子はその本を発見し、うまく扉子にばれないように回収に成功するのだが、読者もいっしょになって考えていたはずの疑問も最後に判明することになる。

その本とは一体なんの本なのか?

それは・・・

『ビブリア古書堂の事件手帖』

という本。

つまり、大輔と栞子が出会ってからビブリア古書堂で起きた事件を大輔が綴った今までの事件記録だったのだ。

人間の悪意が溢れている部分も多いし、なによりも大輔の栞子への想いが溢れているその事件手帖を扉子に見られるのが恥ずかしいという理由で何とか隠そうとしていたというオチになる。

また、今までのシリーズ全てがこの事件手帖だったのだと思うと、本編を超える美しい結末を迎えた素晴らしい物語の収束の仕方のように思えた。

最後に

ビブリア古書堂の事件手帖シリーズの魅力は、他の作品との仲を取り持ってくれる縁を感じさせてくれる部分にあると思う。

まったくく知らず、まったく興味のなかった作品との出会いの場を、スマートに演出してくれるこの作品のファンはとても多い。

一度は完結したこの作品だが、今回のように少しだけ変化を加えつつシリーズを展開し、これからも読者と他の作品を取り持つ、お見合い大好き親戚おばちゃんのような存在でい続けて欲しい。

ビブリア古書堂の事件手帖
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