『春待ち雑貨店ぷらんたん』感想文:想像よりも重くてツライ連作短編ミステリー|岡崎 琢磨

岡崎琢磨『春待ち雑貨店ぷらんたん』を読んだ。

タイトルから想像するに、のんびりのほほんとしたストーリーを期待して手に取った作品だったが、ページをめくってみると想像よりもはるかに重苦しくツラい感情を味わう小説だったので驚いてしまった

今回はタイトルからは想像できないような、影があるこの連作短編集のネタバレ感想を書いてみたいと思う。

春待ち雑貨店ぷらんたん

あらすじ

京都にあるハンドメイド雑貨店『ぷらんたん』。店主の北川巴瑠のもとには今日も不思議な出来事が舞い込む。イヤリングの片方だけを注文する客、遠距離恋愛中の彼氏から貰ったアルファベットの欠けたネックレス、頑なに体の関係を拒む恋人、そして、お店への嫌がらせ。ひとつひとつに寄り添い、優しく解きほぐしていく巴瑠。でも、そんな彼女にも人には言えない、ある秘密があった。とあるアクセサリーショップと4人の来訪者をめぐる物語。

『珈琲店タレーランの事件簿』のシリーズが人気の岡崎琢磨が描く連作短編集。

主人公の北川巴瑠はターナー女性という設定。ターナー女性とは、染色体異常の一つで、正常女性の性染色体がXXの2本なのに対し、X染色体が1本しかないことによって発生する一連の症候群のこと。

いくつかの症状があるようだが、主人公である巴瑠は低身長であることと不妊症であることの2点が当てはまっており、そのほかに日常生活上の問題はない

ターナー女性

作中ではターナー症候群という表記も見られるが、大多数の女性は適切な医学的介入によって健康な社会生活を送ることが出来るため、病気・障害ではなく体質であることを強調する「ターナー女性」という呼び名が推奨されているとのこと。この記事でもその呼び名を使う。

巴瑠は妊娠のこと以外はいたって健康で、好きなことを仕事にして生きている。しかし、ふとした瞬間や誰かにかけられた言葉によって傷つき落ち込んでしまう。

理性では子供だけが幸せではないとわかっていても感情が伴わない・・・というよりも振れ幅によって感情が変わることは多い。

てかこの作品・・・ハッキリいって重い・・・。

もっとゆるりとした癒し系の作品を期待していたので、その心の油断からの重い展開は結構厳しいものがある。出来ればもう少しタイトルを心の準備ができるものに変えて欲しかったものだ。

それでは小編ごとに簡単な感想を。

『ひとつ、ふたつ』

巴瑠と一誠が秘密を開示する話だが、ある意味では一番猟奇性を感じた作品。

この作品に登場する一誠と後半の作品の一誠の性格とがあまり一致していない気がする。後半の一誠は「ちょうどいい」なんて言うかなぁ?と疑問を覚えてしまう。

なんにせよこの作品で登場する一誠はちょいサイコパスで怖い。

『クローバー』

女子大生の遠距離恋愛から別れるまでが描かれる。

そんなちっちぇー男、さっさと別れりゃいいのに、とイラついて読んでしまった。

別れる時まで自分に酔ってるし。別れ話の時までオシャレにしようとしてんな、と思う。他人と関わる重要なタイミングでの行動で自分に酔っているような奴は大嫌いだ。

『手作りの春』

仕事に対するやりがいが妬みとなって周囲にまき散らされる話。

これって冷静に考えるとすごく怖い話だよな、と。

個人経営の店ってこういう怖さがあるんだな、と。

今まで考えた事のない部分に思考が及んだ。

悪意まみれの嫌な話ではあったが、最後に小さな春の訪れを幸せを感じられる展開もあったので、ここまで読んでようやく『春待ち雑貨店ぷらんたん』だなぁと感じられた。全体的に暗いからね、なんか。

結局、他人の芝生はいつだって青いし、自分が幸せかどうかは自分で決めるしかないということだ。そのまま結婚もいいかなと思っていたけれど、この終わり方の方が続編も期待できるよなぁと。

胸くそ悪いNo1『レジンの空』

あえてこの作品の感想だけ飛ばして書いてみた。どうしても単独でこの小編の感想(文句?)を書きたい。

小説全体の読後感自体は悪くない。終わり方にも未来が感じられる。しかし、それとこれとは別問題でこの『レジンの空』という作品は本当に胸くそ悪い話だった

簡単なストーリーはこんな感じ。

友則は付き合っている唯美がなかなか身体を許してくれないので悩んでいる。

唯美は、女性の陰部の横に煙草の火を押し付けて火傷を負わせることで自分の女としてマーキングをする宝田遼平と以前付き合っており、唯美にもその火傷のあとがある。

また、宝田遼平は友則が以前入っていたサークルの先輩。で、友則もそのクソみたいな癖は知っていたが、唯美と宝田が付き合っていたことは知らない。

唯美はその火傷がある事を大切な友則に知られたくなかったというストーリー。

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はっきり言ってそんなクズ男と結婚まで考えていたというのだから、唯美の男を見る目がなさすぎるという点もかなり問題ではある

しかし、何よりも気持ち悪いのはクソ先輩。マーキングすることを誇りに思っている節があるので本当に気持ち悪い

このクソみたいなサークルの先輩は隕石でもあたってしまえばいいのにね。

もしくはポップなノリで硫酸でも浴びればいいのにね。

さらに、

「抱いた女は忘れても、抱いた女に忘れられるような男になるな」

ワーパイセンイカシテマスネー。と真顔で言うしかないような、名言というか迷言というか、もはや冥府に堕ちてほしいという意味で冥言をブチかましているパイセン宝田。

もはや読んでいてストレスしかない。

最後に

書き忘れていたが、途中でサラりと珈琲店タレーランが登場していたところは思わずテンションが上がってしまった。こういう遊び心は楽しい。

タレーランが登場したから・・・というわけではないのが、岡崎琢磨の作品ならば、ラストで大きなどんでん返しがあるものだと勝手に想像してしまってしまったので、この作品が意外とすんなり終わってしまって逆に驚いてしまった

でもこれは自分の期待過多なだけだ。別に絶対にどんでん返しを入れなければいけないルールなどない。

けどなぁ~もうすこしミステリーではない作品として読めれば良かったかな。

そう思えばこのタイトルでいいのか。う~ん。悩ましい。