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感動して泣ける本【31作品】1000冊以上の中から選んだおすすめ小説!随時更新していきます!

※2018年9月15日更新

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人生において”涙を流す”という体験はどれくらいあるのだろう。 

自身の経験から生まれる感動の涙はどういった形であれ誰しも味わったことがあると思う。しかし、涙を流すほどの経験となるとそう多くないのではないだろうか? 

映画やドラマによって感動を味わったり、小説を読んで自己投影することによって誰かの感情に触れる行為は、他人の気持ちを理解するための大切な行為だと思う。

誰かの痛みを共に味わい、誰かの成功を共に喜ぶことで生まれる感動の涙は美しい。 

 

そこで今回は、1000冊以上の本を読んできた経験からアナタにおすすめしたい

【感動して泣ける本】

を選んでみた。 

 

ただし、できるだけ“泣かせるための本”ではなくて、“結果的にすごく泣ける本”という印象を受ける作品を優先してお勧めしたいと思う。

泣けるポイントについてもネタバレしない程度に書いていけたらと思う。よろしくどうぞ。

 

 

 

ルール

  • 実際に読んで面白かった作品をまとめとして紹介(ランキングではなく順番はランダム)
  • 現在個別ページがない作品もいずれ個別ページを作成し、映画、ドラマ、漫画、アニメなど、他の媒体になっているなどの詳細情報はそちらに
  • 基本的にはおすすめしたい点をフォーカスする。気になった点は個別ページに書く。あらすじはamazonから引用させてもらう
  • ダラダラと長い記事なので目次を活用してもらえるとありがたい
  • 重大なネタバレはしないが、見たくなかったり長い記事読むのが面倒だったら目次で飛んで欲しい

 

 

半落ち #横山秀夫

半落ち (講談社文庫)

「人間五十年」―請われて妻を殺した警察官は、死を覚悟していた。全面的に容疑を認めているが、犯行後二日間の空白については口を割らない「半落ち」状態。男が命より大切に守ろうとするものとは何なのか。感涙の犯罪ミステリー。

横山秀夫が描く、妻殺しの警察官・梶が自首するまでの「空白の2日間」の謎に迫る犯罪ミステリーで、逮捕から時系列を追うように関わった人々の目線で語られいく。読み終わって思わず僕は泣いてしまった。人生において人間は自分自身が驚くような選択をする事がある。自分は梶と同じ選択をする事があるのだろうかと、自問自答しつつ主人公と自らを重ね合わせて不安に駆られるほど感情移入してしまう。徐々に明らかになっていく真実に押しつぶされそうになりながら「空白の2日間」の真実を知ると、自然と涙がこぼれてしまう名作だ。 

 

 

 

西の魔女が死んだ #梨木香歩

西の魔女が死んだ (新潮文庫)

中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも……。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。

美しい自然と共に暮らす素敵な素敵なおばあちゃんとその孫のまいの物語。西の魔女とはおばあちゃんのことでタイトル通り亡くなってしまうが、死ぬ間際に残したおばあちゃんの行動の強さと優しさ、ちょっとしたお茶目な遊び心を見せられた時、胸が締め付けられるような感動の波が押し寄せてくる。読むたびにおばあちゃんからまいへの溢れんばかりの愛情の深さが伝わってきて、美しい話を読めて良かったと感嘆できる一冊になっている。また、まいとママの二人から見たおばあちゃんの印象が違うことで、キラキラした素敵キャラで終わらせない所も素晴らしい。ちなみにまいの成長した姿は併録されている『渡りの1日』で確認できるので是非。 

 

 

 

朝が来る #辻村深月

朝が来る

「子どもを、返してほしいんです」親子三人で穏やかに暮らす栗原家に、ある朝かかってきた一本の電話。電話口の女が口にした「片倉ひかり」は、だが、確かに息子の産みの母の名だった…。子を産めなかった者、子を手放さなければならなかった者、両者の葛藤と人生を丹念に描いた、感動長篇。

特別養子縁組を題材にしたドキュメンタリーのような小説。読んでいてこれほど登場人物の幸福を願った小説はないかもしれない。前半は特別養子縁組で子供を受け入れる栗原夫婦の話、後半は出産をして子供を送り出すことになるひかりの話。栗原夫妻の覚悟の話も辛く悲しいが、ひかりが若くして妊娠して自分の意思とは無関係に世界が廻っていく絶望感や、辛い現実に思考停止してしまい知識がないことで堕ちていく現実の厳しさなどにこそ感情移入してしまう。やっぱり人間は独りで過ごすのではなく、共に歩める誰かが必要なのだろう。読み終わった後にタイトルを見つめなおすと、描かれていない物語の続きに美しい朝が来ることを予感させる希望の名作。 

 

 

 

蜩ノ記 #葉室麟

蜩ノ記 (祥伝社文庫)

豊後・羽根藩の奥祐筆・檀野庄三郎は、城内で刃傷沙汰に及んだ末、からくも切腹を免れ、家老により向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷の元へ遣わされる。秋谷は七年前、前藩主の側室と不義密通を犯した廉で、家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。庄三郎には編纂補助と監視、七年前の事件の真相探求の命が課される。だが、向山村に入った庄三郎は秋谷の清廉さに触れ、その無実を信じるようになり…。命を区切られた男の気高く凄絶な覚悟を穏やかな山間の風景の中に謳い上げる、感涙の時代小説

10年後に切腹を命じられた戸田秋谷と、その監視に遣わされた庄三郎の出会いと別れを描く時代小説。・・・と書いてしまうと、無念さから生まれる辛く悲しい物語や、ただ静かに死を迎える精神世界を描いた作品のように思えるが、そんな重苦しい話ではない。想像よりも前向きというか、良い意味で大きくイメージが覆されるような人と人の繋がりを感じられる人間的・肉体的な物語になっている。結末に無念さも感じるが、命は巡りまた新しく生まれていく関係性に希望も見いだせた気がする。今生に未練がないこともまた未練であるという考えも良く、健全で美しい作品だと思う。 作者の葉室麟さんのご冥福をお祈りいたします。

 

 

 

くちびるに歌を #中田 永一

くちびるに歌を (小学館文庫)

長崎県五島列島のある中学校に、産休に入る音楽教師の代理で「自称ニート」の美人ピアニスト柏木はやってきた。ほどなく合唱部の顧問を受け持つことになるが、彼女に魅せられ、男子生徒の入部が殺到。それまで女子部員しかいなかった合唱部は、練習にまじめに打ち込まない男子と女子の対立が激化する。一方で、柏木先生は、Nコン(NHK全国学校音楽コンクール)の課題曲「手紙~拝啓十五の君へ~」にちなみ、十五年後の自分に向けて手紙を書くよう、部員たちに宿題を課した。そこには、誰にもいえない、等身大の秘密が綴られていた。

気弱な桑原サトルと男性嫌いの仲村ナズナの視点で語られる大人の階段を一歩ずつ踏みしめるような物語。この年代の学生の内面がリアルかつ忠実に描かれており、環境の変化に合わせて登場人物の内面の小さな成長をみせてくれる。桑原サトルの自己分析能力の高さから生まれる寂しさについて書かれたあとがきは素晴らしい考察なので一読の価値あり。出来れば作中でも登場する、アンジェラ・アキ「手紙-拝啓、一五の君へ-」を聞きながら読んでもらいたい。読み終わった後は、詩だけで泣けてしまう。ビバアンジェラ。  

 

 

 

 

反乱のボヤージュ #野沢尚

反乱のボヤージュ (集英社文庫)

坂下薫平19歳。首都大学の学生寮で、個性溢れる面々と楽しい日々を過ごしていた。だが、寮の取り壊しをもくろむ大学側は、元刑事の舎監・名倉を送りこみ、厳しい統制を始める。時を同じくして起こった、寮内のストーカー事件や自殺未遂騒動。だが、一つ一つのトラブルを乗り越えながら結束を固めた寮生達は、遂に大学側との戦いに立ち上がる。現代の若者達の「旅立ち」を描く、伸びやかな青春小説。

クンペーこと坂下薫平の視点で語られる大学の寮の話であり、同時に元刑事の舎監・名倉さんの背中をクンペーと共に見つめる物語。大人として芯の通った名倉さんが弦巻寮の学生たちと接している姿には久しく忘れていた感動を覚える。また、寮の日常に訪れる物騒な事件が連続する展開も面白く、大学側と寮の取り壊し問題に立ち向かう様子は胸を衝く熱い展開だ。理不尽な世の中で時に腕を振り上げて戦わなければならないという第二の父親的名倉さんの人生を通した助言は最高だ。ちなみに一番泣けるのは、寮の賄い婦の菊さんの息子・健太郎にクンペーが自分の想いを話す場面だ。もはや鼻水ズルズル。

 

 

 

 

 

夜のピクニック #恩田陸

夜のピクニック (新潮文庫)

高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために――。学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。

歩行祭という丸1日かけて80kmを歩きとおす学校行事の様子を描いた青春小説。最初から最後まで、本当にただ歩いて話しているだけなのに、その緩やかな時間の中に恋、友情、葛藤、希望など、多くの青春に不可欠な要素が自然な形で詰め込まれている。友人に言えない秘密や、転校して名前だけしか登場しない親友のおまじないなど学生の頃を思い出す内容もあり、疲労のピークを迎えて余計なものが全て落ち去ることで、わだかまりが消えていく様子は何故か目頭が熱くなる。実は図書館で借りて読んだのだが、あとで欲しくなって改めて購入してしまった傑作だ。 

 

 

 

島はぼくらと #辻村深月

島はぼくらと (講談社文庫)

17歳。卒業までは一緒にいよう。この島の別れの言葉は「行ってきます」。きっと「おかえり」が待っているから。瀬戸内海に浮かぶ島、冴島。朱里、衣花、源樹、新の四人は島の唯一の同級生。フェリーで本土の高校に通う彼らは卒業と同時に島を出る。ある日、四人は冴島に「幻の脚本」を探しにきたという見知らぬ青年に声をかけられる。淡い恋と友情、大人たちの覚悟。旅立ちの日はもうすぐ。別れるときは笑顔でいよう。

ゆるりとした島の日常と、島という閉鎖空間で生まれる対人関係のささくれと悪意の話。前半はつかみどころがない展開だが、後半になるにつれて子供たちが今まで見えていなかった島の裏の顔も見え、子供が大人になって行く旅立ちを海風に乗せて届けてくれるような印象の物語になっていく。おすすめしたいのは、ある人物が島に帰ってくる際、「おかえりなさい」「ただいま」と叫びあうシーンだ。冴島の青空と流れていく風を実際に感じることが出来るような美しさで満たされているので、是非読んでもらいたいシーン。独特の読み応えというか、本当に存在する島の日常に触れたような気持ちになるのは流石、辻村深月だなと感心してしまう。ちなみに辻村作品で言うと『ツナグ』も感動的なのだが一部嫌な気分にもなるのでこちらを薦めたいと思う。 

 

 

 

陽だまりの彼女 #越谷オサム

陽だまりの彼女 (新潮文庫)

幼馴染みと十年ぶりに再会した僕。かつて「学年有数のバカ」と呼ばれ冴えないイジメられっ子だった彼女は、モテ系の出来る女へと驚異の大変身を遂げていた。でも彼女、僕には計り知れない過去を抱えているようで──その秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる! 誰かを好きになる素敵な瞬間と、同じくらいの切なさも、すべてつまった完全無欠の恋愛小説。

途中まではべったり甘い恋愛小説なので戸惑ってしまう作品だが、気付くと感動してしまっている作品。軽いタッチで進む物語が浮付いて見えないのは越谷オサムの文章のリズムの魅力だと思う。明るく煌びやかな新婚生活を経験した事がある人は、きっと強く感情移入するだろうし、肌のぬくもりや、名前を読んで答えてくれる人が隣にいることは、何にも代えがたい幸せであることを思い出させてくれる。amazonのあらすじではハッピーエンドと書かれているが、僕はあまりハッピーエンドだとは思っておらず、それを証拠に、義父母と再会して話をするシーンは毎回号泣してしまう。 

 

 

 

 

天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 #上橋菜穂子

天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)

大海原に身を投じたチャグム皇子を探して欲しい──密かな依頼を受けバルサはかすかな手がかりを追ってチャグムを探す困難な旅へ乗り出していく。刻一刻と迫るタルシュ帝国による侵略の波、ロタ王国の内側に潜む陰謀の影。そして、ゆるやかに巡り来る異界ナユグの春。懸命に探索を続けるバルサは、チャグムを見つけることが出来るのか……。大河物語最終章三部作、いよいよ開幕!

精霊の守り人』シリーズの8巻にあたる作品だが、なにもこの巻だけを薦めているわけではない。厳密に言うとその前の7冊を読んだうえでこの巻を読むと、もはや言葉にするのがもどかしい程の感動を味わうことが出来る。熱く震えるような前作『蒼路の旅人』のクライマックスから、細く長い希望の糸にしがみつく主人公バルサとチャグム皇太子が多くの罠や裏切りを経て、ついに再開するシーンでは途方もない安心感と共に涙が自然と流れてくる。最初のページから最後のページをめくるまでずっと興奮しているような止まらない面白さで物語はクライマックスへ向けて駆け上がっていく。絶対に一冊目から順番に読んで欲しい名作ファンタジーだ。 

 

 

 

 

 

センセイの鞄 #川上弘美

センセイの鞄 (文春文庫)

センセイ。わたしは呼びかけた。少し離れたところから、静かに呼びかけた。ツキコさん。センセイは答えた。わたしの名前だけを、ただ口にした。駅前の居酒屋で高校の恩師・松本春綱先生と、十数年ぶりに再会したツキコさん。以来、憎まれ口をたたき合いながらセンセイと肴をつつき、酒をたしなみ、キノコ狩や花見、あるいは列車と船を乗り継ぎ、島へと出かけた。その島でセンセイに案内されたのは、小さな墓地だった――。40歳目前の女性と、30と少し年の離れたセンセイ。せつない心をたがいにかかえつつ流れてゆく、センセイと私の、ゆったりとした日々。切なく、悲しく、あたたかい恋模様を描き、谷崎潤一郎賞を受賞した名作。

公平で実直で不器用だけどオチャメなセンセイといい子のツキコさんの高齢な恋愛物語。二人を自分の人生に置き換えたときにななんだか妙にあせる気持ちと、隣にいる人をとにかく大切にしたい気持ちが沸き上がる優しい本。余分も不足もなく本当に絶妙なバランスでなりたってる川上弘美さんの美しい文章が本当に心地よい。センセイの鞄のカラッポの分だけ空いたツキコさんの心の空白が辛く切ないが、そのカラッポの空間には、多くのものが確かに詰まっていたと信じたい。何度読み直しても、どうしてもセンセイが春綱と呼ばれた時に、僕は泣いてしまう。もうダメだね。思い出すと鼻水がでるね。

ちなみに二人の過ごした時間を詩的に表現した『パレード』という作品もあるので感動した方は是非。 

 

 

 

 

 

博士の愛した数式 #小川洋子

博士の愛した数式 (新潮文庫)

[ぼくの記憶は80分しかもたない]博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた──記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい"家政婦。博士は“初対面"の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。

小川洋子さんの作品は本当に”美しさ”を感じさせてくれる文章が多く、この作品も例に漏れず、文章の美しさと内容の温かさで心が癒されるような読書感覚を得られる。数学という美しい静けさを好む博士は、ルート君に対する愛情の深さがあるためにとても魅力的で、数字の中を生きているにもかかわらず、誰よりも血が通っている魅力的な人物に思える。登場人物のすべてがただの良い人で終わらないところも、人間的でとても魅力を感じてしまう。 

 

 

 

舟を編む #三浦しをん

舟を編む (光文社文庫)

玄武書房に勤める馬締光也は営業部では変人として持て余されていたが、新しい辞書『大渡海』編纂メンバーとして辞書編集部に迎えられる。個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく。しかし、問題が山積みの辞書編集部。果たして『大渡海』は完成するのか──。言葉への敬意、不完全な人間たちへの愛おしさを謳いあげる三浦しをんの最新長編小説。

過度に期待して読むと、想像よりも割とあっさりとした展開に肩透かしを食らうかもしれないが、いったいどのような過程を経て辞書というものが出来上がるのか?という疑問に答えてくれる良作。言葉という大海原にかかわる登場人物たちの辞書に対する熱や敬意、先生の馬締に対する感謝の気持ちもストレートに感動してしまう。未読の方に対しては、ずっとチャラい印象の西岡の秘めたる心意気こそが、この作品の最も感動できる要素だということをあらかじめ宣言しておきたいと思う。あと、単行本の装丁の素晴らしさもジワリと光る本。 

 

 

 

天地明察(上下) #冲方丁

天地明察(上) (角川文庫)

江戸時代、前代未聞のベンチャー事業に生涯を賭けた男がいた。ミッションは「日本独自の暦」を作ること―。碁打ちにして数学者・渋川春海の二十年にわたる奮闘・挫折・喜び、そして恋!早くも読書界沸騰!俊英にして鬼才がおくる新潮流歴史ロマン。

読み終わって感無量という言葉しか出てこない。暦・・・つまりカレンダーを作る歴史ロマン小説。算術も星も歴史さえも詳しくない僕なのに、それでも何度も何度も鳥肌が立ってしまう展開で、江戸時代に算術を用いて暦を作るという発想が壮大過ぎて圧倒されてしまった。また、主人公・春海の人柄はもちろん、建部・伊藤の両人の人としての素晴らしさも読むと心が温かくなる。人の及ばぬ”天”と”地”に、算術の問題の正解に使われる”明察”が付く事で、これしかないと思える題名にも感服だった。大いなる感動と共にページを閉じることが出来る器の大きな作品となっている。

ちなみに渋川春海に興味がわいた人は『天才の栄光と挫折―数学者列伝』という本がおすすめ。扱いは小さいが面白い。

 

 

 

 

光圀伝 (上下) #冲方 丁

光圀伝 角川文庫合本版

「なぜあの男を自らの手で殺めることになったのか」老齢の光圀は、水戸・西山荘の書斎でその経緯と己の生涯を綴り始める。父・頼房の過酷な“試練”と対峙し、優れた兄・頼重を差し置いて世継ぎに選ばれたことに悩む幼少期。血気盛んな“傾奇者”として暴れる中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて文事の魅力に取り憑かれた光圀は、学を競う朋友を得て、詩の天下を目指す―。誰も見たことのない“水戸黄門”伝、開幕。

「我が大義、必ずや成就せん」老齢の光圀が書き綴る人生は、“あの男”を殺めた日へと近づく。義をともに歩める伴侶・奏姫と結ばれ、心穏やかな幸せを掴む光圀。盟友や心の拠り所との死別を経て、やがて水戸藩主となった若き“虎”は、大日本史編纂という空前絶後の大事業に乗り出す。光圀のもとには同志が集い、その栄誉は絶頂を迎えるが―。“人の生”を真っ向から描き切った、至高の大河エンタテインメント!

いわゆる水戸黄門さまの人生を描く大作小説。序章で老いた光圀が藤井紋太夫を殺害する場面から物語が始まることで、壮絶な謎から生まれる緊張感と共に作品を読んでいくことになる。他の作品に比べて若干読みにくさを覚えるかもしれないが、少し我慢して読み進めていけば慣れる程度だと思う。真に友人と呼べる読耕斎や心の支えとなり得る泰姫との出会いを経て大義に向けひた走る光圀だが、その信頼できる仲間との別れの場面ではボロボロと泣いてしまった。永く生き大義を果たすこととはつまり、大切に想う周囲の人々との死別を意味する。解説でも書かれていたが創作も入っているのは当然だが、それでも一人の聡明なる人物の人生を一緒に追えて充実感に満たされる一冊。 

 

 

 

芸人交換日記~イエローハーツの物語~ #鈴木おさむ

芸人交換日記~イエローハーツの物語~

結成11年目、いまだ鳴かず飛ばずの漫才コンビ「イエローハーツ」。これまで、コンビの今後について真剣に話すことを互いに避けてきたふたりも、気がつけば30歳。お笑いに懸ける思いは本気。でももう後がない。だから何とかして変わりたい。そう思ったふたりは、「交換日記」を使ってコミュニケーションを取り始めた。お互いの本音をぶつけ合うために―。カリスマ放送作家・鈴木おさむだから描けた、売れない芸人たちのリアル青春物語。

芸人さんをリスペクトしている僕が個人的趣味でおすすめしたいのはこの作品。泣いた笑った感動したと、一つの作品の中でいろいろな感情がスクランブルするような小説で、芸人が舞台で見せる姿ではなく本心から剥き出しになった気持ちを読ませてくれる。売れない芸人と売れていく芸人。売れるコンビと売れなくてもいいからただ組んでいたいコンビ。哀愁と共に感じる売れない漫才師二人の”最後のあがき”がとにかく胸を突いてくる。特に甲本の独白日記は涙腺爆発だ。泣きすぎて頭痛がしてきたほどなので、芸人愛が強い方はご注意を! 

 

 

 

キケン #有川 浩

キケン (新潮文庫)

成南電気工科大学機械制御研究部略称「機研」。彼らの巻き起こす、およそ人間の所行とは思えない数々の事件から、周りからは畏怖と慄きをもって、キケン=危険、と呼び恐れられていた。これは、その伝説的黄金時代を描いた物語である。

有川浩が軽いタッチで「機械制御研究部」通称:キケンの日常を描いていている作品で、理系男子達に混じってギャアギャア騒げる雰囲気が楽しくて読みやすい。ずっとそんな雰囲気で進むのかと思いきや章の間に”大人になった誰か”の話が描かれていき、キラキラした学生時代と現在のシリアスな現実が対比されることで当時の輝きがいっそう増して見える。青春時代を切り取った小説かと思いきや、昔を懐かしむ小説としても読め、さらに最後の章があることで10代が読んでも30代が読んでも満足できる話になっている。泣いてしまうのは、ズバリ黒板のページなので、そのつもりで読んでいってほしい。 

 

 

 

風が強く吹いている #三浦しをん

風が強く吹いている (新潮文庫)

箱根の山は蜃気楼ではない。襷をつないで上っていける、俺たちなら。才能に恵まれ、走ることを愛しながら走ることから見放されかけていた清瀬灰二と蔵原走。奇跡のような出会いから、二人は無謀にも陸上とかけ離れていた者と箱根駅伝に挑む。たった十人で。それぞれの「頂点」をめざして…。長距離を走る(=生きる)ために必要な真の「強さ」を謳いあげた書下ろし1200枚!超ストレートな青春小説。最強の直木賞受賞第一作。

箱根駅伝が見たくて堪らなくなる王道の青春スポーツ小説。ほぼ長距離未経験のメンバーで箱根駅伝を目指す物語で、登場人物たちが緩い同居人の関係から努力を重ねることで強いチームへ変わっていく様子は全てを超越して応援してしまう。選手達の葛藤、大会中の疾走感、集中しゾーンに入った主人公・カケルの感じている世界など、三浦しをんにしか描き出せないリアリティになっていて、箱根駅伝のラストの彼らの”強さ”を目の当たりにすると、自然と目頭が熱くなってしまうスポーツ小説の名作だ

 

 

 

 

容疑者Xの献身 #東野圭吾

容疑者Xの献身 (文春文庫)

天才数学者でありながら不遇な日日を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、二人を救うため完全犯罪を企てる。だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。

あまりにも有名な東野圭吾の長編推理小説にして、ガリレオシリーズの傑作。「推理小説なのに感動するの?」なんて思わずにぜひ手に取ってもらいたい作品。犯人が最初からわかっている倒叙形式のはずなのに、石神の行動が一部隠されている為、最後まで追う側、追われる側のどちらにも緊張感がある。そして、終盤は深い愛情が形を変え、人間味のなさそうな人物が一番ヒューマニスティックであるという予想もしていなかった胸を打つ結末が僕たちを待っている。そして何よりも、題名のセンスがずば抜けて素晴らしい。 

 

 

 

八朔の雪―みをつくし料理帖 #高田郁

八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)

神田御台所町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す「つる家」。店を任され、調理場で腕を振るう澪は、故郷の大坂で、少女の頃に水害で両親を失い、天涯孤独の身であった。大坂と江戸の味の違いに戸惑いながらも、天性の味覚と負けん気で、日々研鑽を重ねる澪。しかし、そんなある日、彼女の腕を妬み、名料理屋「登龍楼」が非道な妨害をしかけてきたが・・・・・。料理だけが自分の仕合わせへの道筋と定めた澪の奮闘と、それを囲む人々の人情が織りなす、連作時代小説の傑作ここに誕生!

旬の料理を題材にした珍しい時代小説で、感動もするが何よりもシリーズ全てが面白い。人情話ではあるが、時代背景と相まって素直に受け入れられる土台が出来ていて、主人公・澪の素直で前向きな性格がとても応援したくなる。長いシリーズの為、感動ポイントは沢山あるのだが、又さんとの別れで感じる切り裂かれるような胸の痛みと、澪とお世話になった種市の最後の会話で感じる胸がいっぱいになるような温かさは格別なものがあった。一度シリーズを読みだしたら止まらない面白さなので注意しつつ手に取ってもらいたい一冊だ。 

 

 

 

アルジャーノンに花束を #ダニエル・キイス

アルジャーノンに花束を〔新版〕(ハヤカワ文庫NV)

32歳になっても、幼児の知能しかないチャーリイ・ゴードンの人生は、罵詈雑言と嘲笑に満ちていた。昼間はパン屋でこき使われ、夜は精薄者センターで頭の痛くなる勉強の毎日。そんなある日、彼に夢のような話が舞いこんだ。大学の偉い先生が、頭をよくしてくれるというのだ。願ってもないこの申し出に飛びついたチャーリイを待っていた連日の苛酷な検査。検査の競争相手は、アルジャーノンと呼ばれる白ネズミだ。脳外科手術で超知能をもつようになったアルジャーノンに、チャーリイは奇妙な親近感を抱きはじめる。やがて、脳外科手術を受けたチャーリイに新しい世界が開かれた。だが、その世界は、何も知らなかった以前の状態より決してすばらしいとは言えなかった。今や超知能をもつ天才に変貌したチャーリイにも解決しがたいさまざまな問題が待ちうけていたのだ。友情と愛情、悲しみと憎しみ、性、科学とヒューマニズム、人生の哀歓を、繊細な感性で描きだす感動の1966年度ネビュラ賞長篇部門受賞作。

日本でもドラマ化されている有名なキイスの傑作感動長編。物語の発想も、日記の形式で語られる物語の構成も言う事なしで、徐々に知能が高くなっていく喜び・驚き・羞恥・希望。そして、徐々に知能が衰退していく中での恐怖・絶望・安堵がリアリスティックに描かれていく。知能が高くなる事が幸せに直結するわけではないという、当たり前だが忘れがちな真理を読者に刻み込むような物語はただただ切ないのだが、アルジャーノンと己を重ねるチャーリイの寂しさと優しさに、きっとアナタは大きな感動を覚えることだろう。 ああ、思い出したら、なんか胸が苦しくなってしまう・・・。

 

 

 

カフーを待ちわびて #原田マハ

カフーを待ちわびて (宝島社文庫)

もし絵馬の言葉が本当なら、私をあなたのお嫁さんにしてください―。きっかけは絵馬に書いた願い事だった。「嫁に来ないか。」と書いた明青のもとに、神様が本当に花嫁をつれてきたのだ―。沖縄の小さな島でくりひろげられる、やさしくて、あたたかくて、ちょっぴりせつない恋の話。選考委員から「自然とやさしい気持ちになれる作品」と絶賛された第1回『日本ラブストーリー大賞』大賞受賞作品。

作品に漂っている沖縄の独特の雰囲気が読み手に心地よいラブストーリー小説。題名を初めて見たときはサッカー選手のカフーの事だと思っていたのが懐かしい。「カフー」は沖縄の言葉で「果報、幸せ」のことで、冒頭からありえないような展開もあるのだが、そのの中に見える人間のやさしさや温かさは読み手の心をゆるりと癒してくれる。素敵な素敵な幸さんの心情を想うと胸が締め付けられそうになるが、幸せの予感をそれとなく感じさせる余韻のある終わり方が、その感情のやり場をそっと作ってくれている。 

 

 

 

横道世之介 #吉田修一

横道世之介 (文春文庫)

誰の人生にも温かな光を灯す、青春小説の金字塔。1980年代後半、時はバブル真っただ中。大学進学のため長崎からひとり上京した横道世之介、18歳。自動車教習所に通い、アルバイトに精を出す、いわゆる普通の大学生だが、愛すべき押しの弱さと、隠された芯の強さで、さまざまな出会いと笑いを引き寄せる。友だちの結婚に出産、学園祭でのサンバ行進、お嬢様との恋愛、そして、カメラとの出会い・・・。そんな世之介と、周囲にいる人たちの20年後がクロスオーバーして、静かな感動が広がる長編小説。第7回本屋大賞第3位に選ばれた、第23回柴田錬三郎賞受賞作。

うまく説明できない事がもどかしいが、大きな事件が何も起きてないのにこんなに面白い文章が存在するという事実に驚愕してしまう名作。作中では大学生の世之介の日常生活と世之介がいなくなった未来の話が交互に描かれるのだが、未来の話が妙にシリアスで殺伐としているのに対し、世之介が生きている時間が緩くてそれでいて何とも温かく感じられる。人間はシリアスに生きすぎず、肩から少し力を抜きながら生きるべきなのかもしれない。何よりも世之介が撮った写真を見つける場面は小説史に残る名場面だと思う。個人的に吉田さんの本の中では一番好きだったりする。 

 

 

 

カラフル #森絵都

カラフル

生前の罪により、輪廻のサイクルから外されたぼくの魂。だが天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得た。自殺を図った少年、真の体にホームステイし、自分の罪を思い出さなければならないのだ。真として過ごすうち、ぼくは人の欠点や美点が見えてくるようになるのだが…。不朽の名作ついに登場。感想軽い文体で読みやすい表現。森絵都ならではの柔らかい文章で描かれた重いテーマの名作小説。

生前の罪で輪廻のサイクルから外された”ぼく”が神様からチャンスをもらって自殺した小林真の身体でやり直す話。「今生きている人生の大切にする」という強いメッセージが込められているので、思い悩んでいる中高生には是非読んでもらいたい。自分の中に入り込み過ぎず、客観的に自らを見る事は人生を生きる為の大切なポイントかもしれない。自分の人生を今まで以上に頑張ろうと真摯に向き合えるようになる優しい名作。今悩んでいるキミの為の一冊。 

 

 

 

一瞬の風になれ(全三巻) #佐藤 多佳子

一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ- (講談社文庫)

春野台高校陸上部。とくに強豪でもないこの部に入部した二人のスプリンター。ひたすらに走る、そのことが次第に二人を変え、そして、部を変える―。思わず胸が熱くなる、とびきりの陸上青春小説、誕生。

少しずつ陸上経験値を上げる新二と連。才能の残酷さ、勝負の厳しさに出会いながらも強烈に感じる、走ることの楽しさ。意味なんかない。でも走ることが、単純に、尊いのだ。今年いちばんの陸上青春小説、第2巻。

ただ、走る。走る。走る。他のものは何もいらない。この身体とこの走路があればいい「1本、1本、全力だ」。すべてはこのラストのために。話題沸騰の陸上青春小説。

佐藤多佳子が生み出した最高の陸上青春小説。ショックな事があろうとも焦る気持ちを抑え、徐々に力を貯えつつ開花するような展開の作品なので、気長に全三巻を読破することをおすすめしたい。そうすれば想像を超えるような素晴らしい読後感が得られるはずだ。陸上競技だけではなく、私生活や友人関係の問題ごとをすべてひっくるめて、努力をする「過程」と結果を受け止めた後の「行動」の中にこそ、この年代の少年たちにとって価値のある物があるのだと伝えられた気がする。涙が流れるような感動というよりも、胸が震えていっぱいになるような感動という言葉がピッタリな一冊だ。 

 

 

 

旅猫リポート #有川 浩

旅猫リポート (講談社文庫)

野良猫のナナは、瀕死の自分を助けてくれたサトルと暮らし始めた。それから五年が経ち、ある事情からサトルはナナを手離すことに。『僕の猫をもらってくれませんか?』一人と一匹は銀色のワゴンで“最後の旅”に出る。懐かしい人々や美しい風景に出会ううちに明かされる、サトルの秘密とは。永遠の絆を描くロードノベル。

読み始めてすぐに「ああ、この本を読んだら僕は泣くだろう」と感じたが、ひねりもなくそのままド直球に泣いてしまった有川浩のロードノベル。ナナの飼い主を探すための旅を描いたストーリーでサトルと関わった人たちが、心の葛藤を乗り越える姿は好感を持ってしまう。だがそれよりも、ナナの一人称で語られるモノローグが徐々に影を帯びていき、ニヒルで恥ずかしがり屋なナナの本心が描き出されたとき、涙腺が壊れたように涙が止まらなくなってしまった。有川浩は説教臭い作品じゃなくて、こういうのをたくさん書けばいいのになぁ。 

 

 

 

 

有頂天家族 #森見 登美彦

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

「面白きことは良きことなり!」が口癖の矢三郎は、狸の名門・下鴨家の三男。宿敵・夷川家が幅を利かせる京都の街を、一族の誇りをかけて、兄弟たちと駆け廻る。が、家族はみんなへなちょこで、ライバル狸は底意地悪く、矢三郎が慕う天狗は落ちぶれて人間の美女にうつつをぬかす。世紀の大騒動を、ふわふわの愛で包む、傑作・毛玉ファンタジー。

感動する小説としてこの本を紹介する人間は珍しいかもしれないが、実は優秀な隠れ感動小説だったりする。狸の一家が主役ということもあり、他の森見作品よりも読みやすくて可愛らしい印象を受けるが、内容を見ると狸鍋にされて食われるようなスリリングな展開が続いたりする。感動するポイントはやはり家族を愛してやまない母と家族を大切に想う兄弟の関係性で、時折見せるちっちゃな家族愛とクライマックスで弾ける大きな家族愛が読者の感動を誘ってくれる。阿呆の血は最高。「面白きことは良きことなり」とは人生に通じる名言だ。 

 

 

 

ソロモンの偽証(全6巻) #宮部みゆき

ソロモンの偽証 全6巻 新潮文庫セット [文庫] [Jan 01, 2014] 宮部 みゆき [文庫] [Jan 01, 2014] 宮部 みゆき [文庫... [文庫] [Jan 01, 2014] 宮部 みゆき

クリスマス未明、一人の中学生が転落死した。柏木卓也、14歳。彼はなぜ死んだのか。殺人か。自殺か。謎の死への疑念が広がる中、“同級生の犯行”を告発する手紙が関係者に届く。さらに、過剰報道によって学校、保護者の混乱は極まり、犯人捜しが公然と始まった―。一つの死をきっかけに膨れ上がる人々の悪意。それに抗し、死の真相を求める生徒達を描く、現代ミステリーの最高峰。

宮部みゆきが描いた現代ミステリーの大作。独りの中学生の転落死をめぐる学校内裁判の物語。剥き出しの悪意、根を張るように成長して肥大化した自尊心、社会の理不尽など、思春期に味わう負の感情がこれでもかというほど詰まっていて、成長してからそれらを味わう辛さは意外とキツい。しかし、その抑圧から解放されるように終盤にかけて徐々に盛り上がりを見せ、学校内裁判でのある人物の心の叫びに、頭をガツンと殴られたような衝撃的な感動を覚えるはずだ。中学生の熱のまま渦中の人間として終わらず、大人として幕を引いていく構成から素晴らしい余韻を感じることもできる。ちなみに文庫にのっている『負の方程式』は涼子と神原君のその後が少し描かれるので是非。 

 

 

 

海賊とよばれた男(上下) #百田 尚樹

海賊とよばれた男(上) (講談社文庫)

一九四五年八月十五日、敗戦で全てを失った日本で一人の男が立ち上がる。男の名は国岡鐡造。出勤簿もなく、定年もない、異端の石油会社「国岡商店」の店主だ。一代かけて築き上げた会社資産の殆どを失い、借金を負いつつも、店員の一人も馘首せず、再起を図る。石油を武器に世界との新たな戦いが始まる。

敵は七人の魔女、待ち構えるのは英国海軍。ホルムズ海峡を突破せよ!戦後、国際石油カルテル「セブン・シスターズ」に蹂躙される日本。内外の敵に包囲され窮地に陥った鐡造は乾坤一擲の勝負に出る。それは大英帝国に経済封鎖されたイランにタンカーを派遣すること。世界が驚倒した「日章丸事件」の真実。

激動の時代を生きた魅力的な主人公とその店員たちの熱い熱い物語。出光興産をモチーフにしたストーリーの魅力だけではなく、ある側面から見た大戦前後の史実も勉強できる良作。イランとの石油交渉と、タンカー派遣のくだりに関しては食い入るように没頭しつつ読んでしまった。とにかく熱い熱い熱い!!晩年、日田さんとの会話を目にした時は思わず目に涙が溜まってしまったほど、人と人の情を感じられる作品になっている百田尚樹が作者じゃなければホント100点満点だと思う、笑。 

 

 

 

スロウハイツの神様(上下) #辻村 深月

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだ―あの事件から十年。アパート「スロウハイツ」ではオーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちが共同生活を送っていた。夢を語り、物語を作る。好きなことに没頭し、刺激し合っていた6人。空室だった201号室に、新たな住人がやってくるまでは。

莉々亜が新たな居住者として加わり、コーキに急接近を始める。少しずつ変わっていく「スロウハイツ」の人間関係。そんな中、あの事件の直後に百二十八通もの手紙で、潰れそうだったコーキを救った一人の少女に注目が集まる。彼女は誰なのか。そして環が受け取った一つの荷物が彼らの時間を動かし始める。

クリエイターたちが共同生活をおくるスロウハイツの人間関係を描く傑作小説。トキワ荘のような彼らの生活はそれぞれが本当に生きているようにリアルであることも素晴らしいし、語り部の視点を変え過去を振り返りつつ、人間関係とキャラクターに深みを持たせる書き方は流石と言わざるを得ない。最終章「二十代の千代田公輝は死にたかった」の見事な伏線回収と、読んでいる時の泣きたいような嬉しいような切ない感情をなんて表現したら良いのだろうか。作品から引用するならこの感情は愛なのかもしれないが、読み終えたアナタはきっと、登場人物たちがみんな愛おしくてたまらなくなるはずだ。 

 

 

 

 

サラバ! #西加奈子

サラバ! 上 (小学館文庫)

僕はこの世界に左足から登場した―。圷歩は、父の海外赴任先であるイランの病院で生を受けた。その後、父母、そして問題児の姉とともに、イラン革命のために帰国を余儀なくされた歩は、大阪での新生活を始める。幼稚園、小学校で周囲にすぐに溶け込めた歩と違って姉は「ご神木」と呼ばれ、孤立を深めていった。そんな折り、父の新たな赴任先がエジプトに決まる。メイド付きの豪華なマンション住まい。初めてのピラミッド。日本人学校に通うことになった歩は、ある日、ヤコブというエジプト人の少年と出会うことになる。

直木賞受賞作。破天荒で痛烈な姉を持つことで気配を消しつつ生きる主人公の半生を綴る傑作。育った環境から考えると同情してしまうが、作品の終盤で歩の人間的な弱さがこれでもかというほど露呈してしまい、可哀想を通り過ぎて哀れんでしまう。だからこそ、落ちぶれた彼が信じて縋りついた「サラバ」のひと言が、時間も場所も感情も飛び超えて歩をあの頃に戻してくれたことが嬉しくて、湧き上がる感情を抑えることができなかった。心の底から感情が湧き上がってくるものを信じて生きる事が出来れば幸せになれるのかもしれない。「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」という言葉はとても素敵な言葉だ。 

 

 

 

終わりに

いかがだっただろうか。気に入った作品はあっただろうか。 

泣ける小説を紹介するというのは、ある意味ではただ作品のハードルを上げているとも言えなくもないので、記事を書いていてずっと葛藤があった。

しかし、自分が味わった”言葉に出来ない感動”を他の誰かにも味わってほしいという”欲”が、その葛藤を上回ったので、今回はこういう形で紹介をさせてもらった。 

紹介した作品の中で一つでも感動を味わった作品があれば、この上なくうれしい限りだ。