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無骨な警察小説『孤狼の血』感想文|魅力的な汚さが躍動する男くさい本|柚木裕子

柚木裕子『孤狼の血』を読んだ。

昭和という時代背景と限りなくグレーなマル暴の刑事が織りなす、無骨で男くさい警察&ヤクザの小説。

男くさいハードボイルドな作品を拒絶してきたわけではないが、今まではあまり好んで手に取ってこなかったタイプの作品だ。

しかし、この作品、読んで見るとなかなかどうして面白い。

今回は、そんな柚木裕子『孤狼の血』のネタバレ感想を書いていきたいと思う。

孤狼の血

あらすじ

昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上とコンビを組むことに。飢えた狼のごとく強引に違法捜査を繰り返す大上に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて金融会社社員失踪事件を皮切りに、暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが…。正義とは何か。血湧き肉躍る、男たちの闘いがはじまる。(引用:amazon)

第69回日本推理作家協会賞を受賞し、このミスにもランクイン。

さらに第154回の直木賞候補にもなった作品。

ちなみにその時の直木賞は青山文平『つまをめとらば』が受賞している。

感想

物語は広島県警の新人刑事・日岡秀一が、呉原東署の刑事・大上章吾の下に付きコンビを組むところから始まる。

大上は対暴力団担当として成績は優秀だが、同時に癒着や違法捜査などの黒い噂が絶えない男でもある。

日岡は賢くて優秀だが真面目すぎるといわれており、大上の元で厳しく鍛えられつつ大上の人間としての魅力に惹かれていく。

ベテラン刑事と新人刑事がコンビを組む作品は多いので、ある意味ベタな構成とも言えるが、この作品に関してはまったくベタな感じはしなかった。

おそらくベテラン刑事と新人刑事がコンビを組んでいるというより、大上と日岡という人間がコンビを組んでいる印象を受けるからなのだと思う。

他には代えられない二人だから成立するコンビ

それがこの作品の独特の色になっている気がする。

そして、この作品から感じるハードボイルドな色気は、その二人だからこそ生まれてくる”魅力的な汚さ”から香り立っているように思う。

時代背景と地域性

ヤクザやマル暴の小説を読んだ経験がそこまで多いわけではないので比べるのが難しいが、昭和という時代の匂いを強く感じられる部分に僕は一番の面白味を感じてしまった。

社会のルールはあるが、それはそれとして目的を果たす為ならルールに目をつぶって捜査をする感覚とでも言うべきか、強引なまでの捜査手法と情報収集の仕方は、この時代だからこそ許されている”魅力的な汚さ”といえる。

その違法ギリギリ(というかアウト)の捜査方法が黙認される時代だからこそ、アンチヒーローのように描かれる大上という存在が”魅力的な汚さ”として許容されるのだと思う。

また、登場人物たちの言葉がガチガチの広島弁であることも、荒々しさが倍増されているようでよかった。広島弁で怒鳴られるだけで1.2倍の恐ろしさになる気さえする。完全に思い込みなのだが。

  • 昭和という時代の汚さ
  • 広島弁の荒々しさ

この二つがマッチすることで、”魅力的な汚さ”を最大限に発揮できる世界観を生み出すことに成功しているのだ。

暴力描写について

偏見はないつもりだが女性作家が描く作品が、無骨で荒々しい男くさい作品であることにある意味で驚いた。

昭和の雑多な空気感や、荒々しいマル暴の警察の様子などもそうだが、統計的な実感として、女性作家が書いているとは思えないような文章と物語の構成だ

作者の性別なんか、作品の世界にまったく関係ないなと実感してしまう。

そんな中、良い意味で驚いたのは直接的な暴力描写の少なさ

恫喝や脅し、追い詰めるような描写はあるが、直接的に人が傷つき殺されるような描写はほとんど記憶にない。

もちろん、まったく暴力描写がないわけではないのだが、それこそ映画『アウトレイジ』のように、口の中に歯を削る機械をぶち込まれてかき混ぜられるような凄惨な暴力が直接描かれることはなかった

主人公が警察の立場であることを考えれば、暴力の現場に立ち会い続けることよりも、事件が明るみに出るまでは知らないことが多いので、当然と言えば当然かもしれない。

しかし、ヤクザ物なのにそこまで残酷に感じずに読めるのは、直接的な暴力描写の量と関連性があると思う。

暴力の直接描写がなくとも恐ろしさが伝わってくるのは作者の見せ方の上手さが際立っているからかもしれない。

鮮やかな伏線回収

作者の見せ方の上手さが光ると言えば、もう一つ、鮮やかな伏線回収についても触れておきたい。

その伏線とは、各章の冒頭にある日岡が書いたと思われる報告書のことだ。

報告書は毎回必ず数行が削除されており、消されているのは主に大上が違法行為をしている部分についてだ。

初めて読んだ時は、違法行為がここにあるんだということを強調するだけの演出かと思っていたが、実際は日岡が内定のスパイで大上の行動を公安に報告するために書かれた報告書だったのだ

大上に信頼を置くようになった日岡は、上司に逆らう形で削除した報告書を提出したことが終盤で明らかになる。

ただの報告書が、読み終えてから納得できる鮮やかな伏線だったのは驚いた。

また、大上と小料理や 志乃のママ・晶子は、日岡が公安のスパイであることに薄々感づいていたのに、本当の仲間のように接してくれていたことをクライマックスで日岡は知ることとなる。

秀一という名前の件もあったのかもしれないが、スパイとわかっていながら信頼して可愛がっていたのかと思うと、大上と晶子の人間性にはグッとくるものがある

タイトルについて

タイトルは『孤狼の血』だが、「ころうのち」と書いて変換すると『虎狼の血』という漢字も出てくる。

”虎狼”とはトラやオオカミのように貪欲で残忍な人を例える言葉だ。

残忍な暴力団の業界の事を”虎狼”と表現するならば、ヤクザたちが抗争によって血を流す展開が「虎狼の血」というタイトルで表現されていてもおかしくない。

さらに、孤狼の「狼」・・・つまり、オオカミという呼び名は、大上(オオガミ)という名前と近い響きを持っているのはおそらく偶然ではなく、孤独な大上の死にざまをタイトルの段階で表現しているともとれる

そう考えると、なかなかどうしてシビアなタイトルと言えるかもしれない。

映画化について

2018年5月に映画公開。

メインの登場人物のキャストは以下のようなもの。

大上章吾|役所広司

日岡秀一|松坂桃李

高木里佳子|真木よう子

一ノ瀬守孝|江口洋介

尾谷憲次|伊吹吾郎

大上はもう少しポチャッとしたガタイのいいオッサンをイメージしていたが、役所広司さんならば素晴らしい演技を見せてくれるに違いない。

日岡役の松坂桃李さんも、生真面目さと裏の顔がマッチする気がして楽しみだ。

気になるのは晶子の不在。代わりに真木よう子さんが近い役として登場するのだろうか?

あとは、単純に江口洋介のヤクザ演技が楽しみ!

ただ、唯一の気がかりは、公式サイトを見る限り大上がパナマ帽をかぶってない事

いやー大上のキャラクターだったらパナマ帽はかぶっててほしいよなぁ・・・。

たぶん、狼のライターはあるんだろうな。見たいな。

最後に

今まさに読み終わった直後に感想を書いているのだが、スパっと切り取られたような物語の終焉には驚かされた。

抑えきれなかった暴力団の抗争を、細かく描写するのではなくて、年表でサラリと終わらせるあたりも、警察側からの視点を良く表しているようで面白い。

かなりゾクゾクする終わり方をしたので、このまま続編にあたる『凶犬の眼』を読んで、その感想も書いていきたいと思う。