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自分にも心当たりがありすぎて身もだえしてしまう苦痛青春小説『青くて痛くて脆い』感想文|住野よる

青くて痛くて脆い

住野よる『青くて痛くて脆い』を読んだ。

 

思春期の痛々しさを表現した小説はたくさんあるが、その中でも飛びぬけていたたまれない気持ちになる作品だった。

いたたまれない気持ち、という事はつまり、自分にも心当たりがあって恥ずかしくて身もだえしてしまうということだ

書かれている内容が自分に向かって突き刺さってくる感覚は正直ツラい。

今回はそんな青春の苦痛を味わえる小説『青くて痛くて脆い』ネタバレ感想を書いてみたいと思う。

 

 

青くて痛くて脆い 

人に不用意に近づきすぎないことを信条にしていた大学一年の春、僕は秋好寿乃に出会った。空気の読めない発言を連発し、周囲から浮いていて、けれど誰よりも純粋だった彼女。秋好の理想と情熱に感化され、僕たちは二人で「モアイ」という秘密結社を結成した。それから3年。あのとき将来の夢を語り合った秋好はもういない。僕の心には、彼女がついた嘘が棘のように刺さっていた。(引用|amazon)

前半部分は主人公の楓の視点が読者とリンクする正常な視点としてストーリーが進んでいく。

【回想パート】では奇抜な行動をする秋好と仕方なく友人関係を結んでいき、

【現在パート】では変わってしまったモアイという謎の集団が幅を利かせつつ大学内で嫌われている様子を眺めつつ物語が進んでいく。

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あらすじで、

あのとき将来の夢を語り合った秋好はもういない。

と書かれている通り、現在パートでは秋好の存在が確認できない。

文章の雰囲気からすると、死んでしまったのか、もしくは遠くに引っ越してしまったのか、はたまた大きな病気にかかってしまったように感じられる。

読者は、秋好が不在になることで二人の作ったモアイが変わってしまい、楓は追い出されて今に至るような展開を想像することになる。

 

しかし、それは作者のミスリードだ。

 

実は秋好は変わらずモアイの代表として健在で、ヒロというあだ名で呼ばれている。

モアイも確かに組織としての在り方を変えてはいたが、特に大きく迷惑をかけるような組織ではない。

むしろ秋好が自分の事を見てくれなくなり、自分がないがしろにされているように感じた楓が、ほとんど逆恨みのようにモアイを脱退して攻撃を仕掛けていたことが中盤以降でわかる構成になっている

要するに、秋好ではなく主人公の楓の方がタイトルの通り”青くて痛くて脆い”人間であることがわかるというストーリーだ。

大義名分を掲げて、自分の恨みを晴らそうとしている自分の内面に気が付かない主人公は、若気の至りで実に痛々しいものだった。

 

ちなみに、正常な視点で語られていく主人公が物語の終盤で大きくしっぺ返しをくらい、実は一番痛い奴が自分だったという話の構成は、朝井リョウ『何者』に、とてもよく似ている。 

 

何が『青くて痛くて脆い』のか?

わりと不思議なタイトルというか、この作品名が一体何のことを指しているのか、一見するとわかりにくい。

 

もちろん読めば一目瞭然で、

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青春時代の鼻をつまみたくなるような青臭さ。

青春時代の目をつむりたくなるような痛々しさ。

青春時代に掲げている信念の脆さ。

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それらの苦々しい青春の恥部がまとめ上げられているタイトルになっている。

自分にも覚えがあるが、青臭く偉そうに正論を振りかざして世の中に向かうものの、世間の圧倒的な現実の前に、その理想が脆くも崩れ去る体験は多くの人間が経験したことがあると思う。

この作品の内容を短く簡単に説明すると、タイトルの通り、青臭くて、痛い行動を取り、信念が脆くも崩れ去る・・・そんな主人公の青春時代が描かれている作品ということになる。

そして、その”青くて痛くて脆い”人間は、作中に二人いる。

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青くて痛くて脆いふたり

”青くて痛くて脆い”ふたりの内、一人はもちろん主人公である田端楓だ。

はじめはまともに見えるが、徐々に見えてくる主人公の思考と行動の気持ち悪さに辟易してしまう。

モアイに対する悪評の一部を肥大化させて、さも自分が世の中の正義を代行しているかのようにモアイを攻撃する主人公は青くて堪らない

しかも、そのモアイへの攻撃の理由は、メンバーが増えて秋好が自分だけを見てくれなくなった為に、拗ねて離れて挙句の果てに攻撃をしているなんてハッキリ言ってどうしようもない痛さだ。

そして、自分が単なる”かまってちゃん”だと自覚した後は、あれだけ自分を正当化していたにもかかわらず、精神的にグチャグチャになるほどに脆かった

本当に情けない主人公だ。

読んでいるのが苦痛といってもいいくらいだ。

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もう一人の青くて痛くて脆い存在は、秋好寿乃、モアイの中ではヒロと呼ばれているリーダーだ。

ただし、秋好の痛さは、楓に比べてまっすぐで健全な痛さだと思う。

理想を語り、理想だけを追求して物事を進めていく様子と、その理想が本気で叶うと信じ続けられる青臭さを持ち、大学の講義中にいきなり手を挙げて空気の読めない熱血な質問をして周囲から失笑を買ったりする痛さもある。

読んでいて気恥しさを覚えるものの、年長者から見れば微笑ましい痛さだ。

そして理想を叶えるためのモアイの理念を変えて、理想だけでは現実は変わらないと諦めてしまった信念の脆さ

さらに、ラストの言いがかりに近いような楓の発言によって、モアイを解散してしまった信念の脆さだ。

 

僕はこのラストの場面でモアイを解散してしまった秋好の弱さと優しさにガックリしてしまった。

楓に対して反発心すら持って読んでいたために、秋好には負けないでほしかったのだが、残念ながらそれを跳ねのけられるような強さは持ち合わせていなかったようだ。

 

どちらの若者も、この上なく”青くて痛くて脆い”

 

しかし、自分の欠点や汚さをを自覚して、乗り越えて、初めて大人になっていくのかもしれない。

自分にも経験がある為に、その様子を読むことは、苦痛でもあり、同時に微笑ましくもある。

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最後に

「あまり人間に近づきすぎないようにすること。誰かの意見を真っ向から否定しないようにすること」

という、楓の信念は個人的には嫌いではない。

嫌いではないが、その信念が対人関係の逃げになってはいけないと思う

 

若かりし日の”青くて痛くて脆い”一面は誰しもが持っていたはずだが、皆忘れてしまったか、もしくは目をそらして生きている。

物語においても、楓や秋好が抱えていた稚拙な信念のようなものは、これから先の人生で経験や勉強でいかようにも姿を変えていくはずだ

あえてそれを”信念が成長する”と呼ぶが、その信念の成長に大切なのは、楓の信念とは逆で、友人や家族と意見をぶつけ合うことなのではないかと思う。

 

登場人物で言うと董介のような存在が重要なのだ。

間違っている時に間違っていると言ってくれる優しくて友達想いの人間だ

ラストシーンで、ポンちゃんや董介との親交が途絶えてなかった様子が描かれていたが、楓の成長に董介の存在が大きく関わっていたと僕は信じている。

あと、ポンちゃんは可愛いから正義。