トミーの思い出 ~夢を追いかける君に気付いてほしいこと~【前編】

  初めに

先日、十数年ぶりに卒業アルバムを眺めた。

思わず懐かしくて時間を忘れてしまったのだが、ある一人の男の写真を見つけた時に高校生の時に味わった強烈なまでの夏の思い出がフラッシュバックしてきた。

その思い出。トミーという男の思い出

大した話ではないのだが、少しお付き合いいただきたい。

トミーという男

僕らが中高生の頃よく遊んでいた仲間の一人にトミーという男がいた。

彼は電車の時刻表を覚える事とたけのこの里を食べる事を至上の喜びとしていた男で、
中学生にもなって両親をパパ、ママと呼んでいた彼は、当然「マザコン」だの「トンガリ」だのおよそ名誉とは言いがたい烙印を押されていた。

さらにたけのこの里フリークだった彼は、正直すごく太っていた。ストリートファイターで例えるとエドモンド本田。エグザイルで例えてもエドモンド本田。もう彼はエドモンド本田だった。中学時代、そんな彼はあまり目立つような行動もせずひっそりと過ごしていた。

それでも彼にも良い点はあった。1つは彼の父は社長で、とてもお金持ちだった事。そしてもう1つは、意外と顔が悪くない事だ。

トミーはマンションに住んでいたのだが、彼の家にはなんでもあった。食事やゲーム機のクオリティはもちろん、年に数回の旅行。冷凍庫に入っている大量のたけのこの里。おやつが角砂糖だったウチとは生活水準が違う…と、よく思ったものだ。

それに彼はなかなかのベビーフェイス。贅肉があと10kg…いや20kg落ちたら「あら坊や。私の部屋へいらっしゃい」などとホテルのバーで言われてパックリされてもおかしくない端正な顔立ちをしていた。しかしながら悔やまれるのが、その二つのプラス要素が彼を調子づかせてしまったことだ。

中学卒業後、高校デビューした彼は調子に乗りはじめた。

毎晩毎晩「僕はモテる…ボクはモテる…ボクハモテル…」と鏡に向って自己催眠をかけてるかのような豹変ぶり。何が彼をそうしてしまったのだろうか。

「俺の高校鞄は持ってるだけで女が寄ってくる」
「俺がボーダーのTシャツを着てるとキムタク似」
「口笛を吹けば金髪美女が股を開く」

等の勘違いのオンパレード。もう見ている僕等が目を背けたくなるほどの大ハッスル。実際には腹の肉でボーダーTシャツなのに線が平行に見えた事がなかったのに。とんでもない勘違いだ。

そんな勘違いをし始めたトミーが僕等からやや浮きはじめた頃、事件は起こった。

ある日を境に彼の姿を町で見かけなくなったのだ。

 トミーの失踪

彼の家に遊びに行っても、本人はおろか家族も出てこない。一体どうなってるのかと誰もが不思議がっていた。

思春期の多感な時期の僕たちに起こる事件の中では、この「トミー失踪事件」はトップクラスにセンセーショナルな話題だった。様々な憶測が飛び交い、良い噂や悪い噂に踊らされる僕達。

最近仲間内ではちょっと浮き始めていたけど、やっぱりあいつは友達だから。心配になった僕は、仲間たちと集まりトミーを探してまわることにした。

あとで分かったことなのだが、どうやらトミーの父親の会社が経営難から夜逃げをしたらしいのだ。生活能力のない学生のトミーは当然一緒に行く事になる。急な話で友達に連絡する事も出来なかったんだろう。

でもそんな事とは知らない僕等は、トミーが行きそうな所を片っ端から探した。ゲームセンターや牛丼屋、レンタルビデオのアダルトコーナーのトミーが好きだった女優のブースに至るまで探しまくった。それこそ重箱の隅をつつくように。つつきすぎて穴があくほどに。

でも彼は見つからなかった。当然だ。夜逃げ中の家族がAVコーナーにいるわけはない

高校生なりに手を尽くしたが結局トミーは見つからず、彼が生きているかどうかさえ解らない日々が過ぎて行き、残念ながら彼を探す事を諦めた僕等はそれぞれの生活に戻っていった。そして日々の忙しさに追われ彼の事が頭から離れ始めてきた頃、不意に彼から電話があった。

「今いる場所はお前らには言えない、けれど元気でやっている。今度時間をつくるからお台場で会おう」と。

何故わざわざお台場なのかは今でも意味がわからないし、妙にスター性を出して上から目線は気になるけれど、とりあえず無事がわかる連絡がきたので、みんな安心して喜んでいた。

そして数週間後、僕等はお台場にいた。もちろんトミーと再会する為だ。

待ち合わせ場所では、先に待っていたトミーがハニカミながら片手を振って近づいてきた。

その仕草が微妙に格好つけていて鼻につくが、久々の再会だ。笑って許してやろうじゃないか。そしてやたらと背後を振り返り、組織に追われているぜアピールを繰り返していたことも寒気がするが、そんなの小さな事じゃないか。

会えなかった頃の話題で話は尽きず、会ったばかりだと思ったら、あっという間に日が落ち始めている。再会を喜ぶには時間が短すぎた。皆も同じ気持ちで、このまま帰るのは勿体無く思ったらしい。だから僕等は、家に帰らずお台場の海岸を夜明けまで散歩することにした。

でも今思い返してみるとその散歩さえなければ、僕らはトミーとまだ共に歩んでいたのかもしれない。

↓↓↓長くなったので後編へ続く