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笑いの狂気が生んだカイブツが叫びだしている『笑いのカイブツ』ツチヤタカユキ

笑いのカイブツ

ツチヤタカユキ『笑いのカイブツ』を読んだ。

 

ニッポン放送のラジオ番組『オールナイトニッポン』のネタはがきのコーナー、NHKで放送していた『着信御礼!ケータイ大喜利』など、笑いに対してストイックな番組を好む人はこのツチヤタカユキという名前を知っているのではないかと思う。21歳でケータイ大喜利のレジェンドとなり、ネタはがきのコーナーでは毎週のように名前が呼ばれるとんでもない人物。

 

この『笑いのカイブツ』では、自らを才能のない人間と評するツチヤタカユキ氏がどのような生活を送り、どのような考えを持ち、どのように生きていきたいか、が描かれている。

 

自身の中の笑いと研ぎ澄まし、尖りきったがゆえに社会に適応できなかった青春時代と、そこから未来に進んでいく様子がむき出しでぶつかってくる作品なので、今回はその感想を書いてみたいと思う。

 

 

笑いのカイブツ 

 

あらすじ

人間の価値は人間からはみ出した回数で決まる。僕が人間であることをはみ出したのは、それが初めてだった。僕が人間をはみ出した瞬間、笑いのカイブツが生まれた時―他を圧倒する質と量、そして“人間関係不得意”で知られる伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキ、27歳、童貞、無職。その熱狂的な道行きが、いま紐解かれる。「ケータイ大喜利」でレジェンドの称号を獲得。「オールナイトニッポン」「伊集院光 深夜の馬鹿力」「バカサイ」「ファミ通」「週刊少年ジャンプ」など数々の雑誌やラジオで、圧倒的な採用回数を誇るようになるが―。伝説のハガキ職人による青春私小説。-amazonより引用-

学生のころから毎日500個の大喜利をノルマにしながら生きる。時間と共にそれが1000個になり、最終的には毎日2000個の大喜利をしながら消費していく毎日を生きる

 

そんなノルマを課していたら、学業だけではなくバイトや仕事…というよりもそもそも人間関係に支障をきたすのは当然で、ツチヤタカユキ氏は就職はおろかバイトも長続きしない毎日を送りながら、狂ったように大喜利をしていく。本書はそんなうだつの上がらないツチヤタカユキ氏の魂の悲鳴のような私小説になっている。

 

意図してなのか、そうせざるを得なかったのかはわからないが、この作品では時系列がバラバラに掲載されている。時系列の前後で読みにくさを感じるのだが、同時に作者の感情の整理が追い付いていない感じがよく伝わるので、僕には良い効果に思えた。

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『笑い』に純粋

ツチヤタカユキ氏は大喜利、ネタ、などを一日の大半を使って考えている。とにかく24時間『笑い』のことだけを考える日々とはどんなものだろうか。

 

同級生が友達と遊んだり、恋人を作って楽しんでいる時間に、ただひたすら面白いことを考えて応募する。バイト中も頭の中で大喜利をしているので、失敗も多いし(これは単純に迷惑行為)、周りとコミュニケーションもとれない。(よくコミュニケーションをないと表現する人もいるのだが、これはないのではなく、ないのだと僕は思っている。)

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また、笑いを第一優先にせず、お偉いさんにヘコヘコとゴマをすることで仕事を取ってくる先輩作家に対して腹を立てており、絶対になりたくないと断言している。だが、実際には自分が時間と命をかけても、それ以下の時間でこなせてしまう才能や、コミュニケーション能力で仕事が出来てしまう現実に絶望している。他の仕事でもあるよね、こーゆーこと。


皮肉なのは『笑い』とは正負で言えば、正の感情であるはずなのに、ストイックに『笑い』を追求することで本人が正の感情からどんどん離れていき、負の感情を身にまとうことになることだ。

 

『笑い』に対して、純粋すぎるがゆえに社会に適合できない事実は残酷だ。

 

 

不器用な言葉

一番心に突き刺さったのは、母親を除いた3人の人物に向けた作者からのメッセージ。

 

一人目は、吉本の劇場支配人

大量のネタ帳を見せた時にその熱意に打たれ、作家として採用してくれた恩人で、他の作家からの嫌がらせを受けて辞める際に、心の底から感謝の言葉を伝えよう・・・とするが、実際に言葉に出来なかった思いが文章で書かれている。

 

二人目は、昔の恋人

誰からも受け入れられなかったツチヤタカユキ氏を、受け入れて共に時間を過ごした昔の恋人。現在は別れているらしいのだが、その別れの際に伝えたかった感謝の言葉だが、やはりそれも言葉にできず、この本の中でのみ胸を衝く想いが並んでいる。

 

三人目は明言されていないが、オードリーの若林さん

ツチヤタカユキ氏が自殺を決意した時に若林さんに送ったLINE。その返事を読んで、これまで生きてきた中で一番嬉しい言葉をかけてもらったと書かれていた。それぞれがそれぞれに、不器用で純粋だからこそ言えなかった言葉たちが胸を締め付けてくるようだ。また、リトルトゥースとしてはオードリーの若林さんとの交流の一部と、感謝の気持ちが語られている部分は思わず目に涙をためてしまう。

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最後に

本のラストでは絶望して終わっている印象を受ける。

 

しかし、現在ツチヤタカユキ氏はオードリーをはじめとする数組のお笑い芸人さんのネタを作っているとの噂がある。

 

特に、2016年のM-1グランプリで優勝した銀シャリのネタ(おそらくドレミのネタ?)の作成に、ツチヤタカユキ氏が関わっているのであれば、こんなに嬉しいことはない。

 

彼はとにかく純粋に芸人さんをリスペクトし、純粋にお笑いのネタ作りに関わっていきたいだけなのだと僕は思っている。無責任にがんばれとは言わないが、心の中で応援はしている。