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林業を題材にした『神去なあなあ日常』は日常系小説として中毒性がありすぎる-三浦しをん-

神去なあなあ日常 (徳間文庫)

三浦しをんの『神去なあなあ日常』を読みました。

 

WOOD JOB!』という題名で映画されているこの作品は、個人的には映画に向いていない作品だと思ってました。単純に林業という"お仕事小説"という側面のみから描く小説だったら映画にするのも面白いと思うんですが、この作品は林業という仕事の魅力以外の、違った魅力にあふれている作品でもあるからです。

 

そして、その魅力は三浦しをんの文章だからこそ味わえる格別なものです。

 

今回は何故映画に向いていないかという点と、『神去なあなあ日常』という小説の魅力とネタバレの感想を書いていきたいと思います。

 

 

 

神去なあなあ日常 

あらすじ

美人の産地・神去村でチェーンソー片手に山仕事。先輩の鉄拳、ダニやヒルの襲来。しかも村には秘密があって…!?林業っておもしれ~!高校卒業と同時に平野勇気が放り込まれたのは三重県の山奥にある神去村。林業に従事し、自然を相手に生きてきた人々に出会う。(引用:amazon)

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高校を卒業したばかりの主人公・勇気が担任と母親から無理やり林業が盛んな神去村に就職(拉致?)させられて徐々に神去村の「なあなあ」な空気や森の環境に触れて変わっていく様子が描かれるお仕事小説です。

 

展開的には全く興味のない世界に飛び込んでいった新社会人が、奮闘しつつその仕事の魅力に気が付いていくという、比較的ベタなお仕事小説の流れから始まります。ただ、普通のお仕事小説と違うのは、漠然とした『山の神様という概念』が存在することですね。そこに大きな違いが生まれています。

 

ちなみにタイトルにもある「なあなあ」とは、「ゆっくり行こう」だとか「まあ落ち着け」というニュアンスを持つ言葉で、この地方の方言のようなものですね。方言がタイトルに入ると独自色が強く出て売れると思っているのですがどうでしょう。

 

 

山の神様

この小説は主人公の勇気の一人称で語られて、かつ会話部分も多いのでとても読みやすい小説です。しかし、読み終えてみると同時にとても神聖な体験をしたような気持ちになれる不思議な小説でもあります。

 

普通に仕事を頑張って何かを成し遂げて「やったぁー」と喜んで終わるような展開ではなく、読みやすい会話主体の文章と相反するような、どこか静謐さを感じさせる部分がこの小説には確かに存在しているんです。

 

その静謐さは確実に『山の神様という概念』が生み出しており、太古から続く人間と山の神様の不思議な関係性があることで、ただのお仕事小説の枠を超えて、この小説にしかないオリジナルな魅力になっているという訳です。『山の神様』が存在していて、でもそれが特別なこととして描かれるわけではなく、森や水や雲や山と同じように当たり前に受け入れられている神去村の神さまや御神木の存在もなあなあな感じで受け入れている自分がちょっと好きになれるんですよね。

 

少しずつ失われている日本人の宗教観の根幹である自然に近いぶん、自然を恐れ、敬い、当然のこととして湧き上がる信仰心がこの村には存在していて、それが当たり前のこととして描かれる様子が不思議ととても温かく感じられます。自分も混ざりたいと感じさせてくれるコミュニティーを描けるのは、作者の想像力の美しさではないでしょうか。

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林業の魅力

作品では林業としての魅力もしっかりと描かれています。山で切るべき樹木の話や、ただ伸ばしっぱなしの木を出荷しているわけではないという現実。さらに雪害やヒルの存在など、一般的には知られていない林業の大変さが語られています。それらの大変さを乗り越えて、村民達が少しずつ主人公の勇気を認めていく様子も読んでいて心地よいです。


ただ、描かれているのは大変さだけではありません。四季の美しい神去村の風景描写とそれを体験したときの勇気の感覚は時間を忘れさせてくれます。その中でも特に夏の山の描写が素晴らしいです

 

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濃厚で美しい自然に山の空気まざまざと浮かんできます。木々の間からこぼれ照らしてくる真夏の日差しと、その暑さと汗を流れ落としてくれる小川の冷たく気持ちのいい感覚。それらを味わう時間がゆっくりと流れていく様子は、文字から映像が呼び起こされるようで、どこか懐かしい思い出のような感覚も味わえる不思議な感覚を味わうことができます。こんな日常をずっと味わっていたいなと感じさせてくれる中毒性のある日常描写なんです。

 

 

日常系アニメ的世界観

アニメの分類の中に“日常系”と呼ばれるジャンルがあります。

 

その日常系アニメとは大きな目標を達成するために努力をしたり、ドラマチックな事件と共に成り上がっていったりするようなことはなく、大きな波のない平穏な日常を仲間たちと過ごしていくだけのアニメです。

 

ただ、「何も起こらないのが、日常系アニメ」なのではなくて、「何も起こらないのに見たくなるのが日常系アニメ」なのではないかと思っているので、そういった意味で、この『神去なあなあ日常』も物凄く大きな何かを成し遂げるわけではなく(もちろん恋愛や仕事などの小さな目標はあるが)、これからも神去村での日常が続いていくのだろうと感じさせてくれる作品になっています。

 

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でもその代わり、登場人物たちみんな、愛しい人たちなんです。神去村の人たちは、素朴でのんびりしていて、森に入るとたくましく、お祭りのときは猟奇的。そしてすべての物事に対してなあなあでおおらかに生きています。そんなほのぼのした登場人物たちを見ていると、いわゆる“日常系アニメ”ならぬ“日常系小説”のようで、これがとてつもない中毒性を持っています

 

ちなみに続編として『神去なあなあ夜話』も出ているのですが、そちらを読んでもすぐにその続編が読みたくてたまらなくなっちゃうんですよね。本当に困った作品です。 

  

映画『WOOD JOB!?神去なあなあ日常』

冒頭でも触れましたがこの作品は『WOOD JOB!?神去なあなあ日常(ウッジョブ かむさりなあなあにちじょう)』のタイトルで、2014年5月10日に映画公開されています。

 

 

キャストも豪華!!

平野勇気/染谷将太

石井直紀/長澤まさみ

飯田与喜(よき)/伊藤英明

飯田みき(与喜の妻)/優香

なんとなく出演者のイメージが原作に近い気がして嬉しいです。ロケ地は津市の旧美杉村で、撮影は全てこの村で行われたようなんですよね。ちょっと行ってみたいですよね。

 

 

最後に

実はこの本、僕が体調を崩して病院の検査をたらい回しにされている時に読んだ本でした。体調は悪いし、長く待たなければいけない不安の中で、なあなあに進んでいく物語を読むことができ、何となく心が元気になったような気がしました。

 

最後のお祭りはクライマックスに相応しい大きな盛り上がりをみせるので、少し心に元気がないなと感じた時なんかに読んでみてはいかがでしょうか。おすすめですよ!