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言葉を操る大人の為のファンタジー小説『図書館の魔女』感想文!名作すぎて読了後の喪失感が凄すぎる…

図書館の魔女 第一巻 (講談社文庫)

高田大介『図書館の魔女』を読んだ。

 

運命の人と出逢えた時の感覚を雷に撃たれたようだと表現するが、この作品を読み終えた今、同じく雷に撃たれて痺れたような感覚でこの文章を書いている。読み終わった今でもまだ胸がドキドキしている。

 

本当に久々に出会えた本物の作品だったので、是非とも皆さんにも読んでもらいたいのだが、実は全四冊ある文庫本の第一巻の序盤、だいたい1/3くらいまではとても読みにくい作品になっている。僕も読み始めは「長いのに読みずらい作品に手を出してしまったなぁ」と後悔していたのだが、一巻の後半以降は、ページをめくるのがもどかしいくらい物語に没頭してしまう傑作だ。

 

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この作品はファンタジー小説に分類される作品だが、伝説の剣もドラゴンも魔法も登場しない。

 

登場するのは“言葉”のみ。

 

その“言葉”は主人公たち個人の関係を育みつつ、その“言葉”は国と国の争いの行く末に影響を及ぼしていく。“言葉”を巧みに操っていく主人公たちの物語を読んでいくのがとにかく楽しくてたまらないのだ。

 

今回はこの名作『図書館の魔女』の作品全体のネタバレ感想とまだ読んでない方へ向けた「前半の読みにくさを乗り越える為のコツ」を伝えていきたい。

 

 

 

図書館の魔女

あらすじ

鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女(ソルシエール)」マツリカに仕えることになる。古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ、「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声を持たないうら若き少女だった。超弩級異世界ファンタジー全四巻、ここに始まる!図書館のある一ノ谷は、海を挟んで接する大国ニザマの剥き出しの覇権意識により、重大な危機に晒されていた。マツリカ率いる図書館は、軍縮を提案するも、ニザマ側は一ノ谷政界を混乱させるべく、重鎮政治家に刺客を放つ。マツリカはその智慧と機転で暗殺計画を蹉跌に追い込むが、次の凶刃は自身に及ぶ!深刻な麦の不作に苦しむアルデシュは、背後に接するニザマに嗾けられ、今まさに一ノ谷に戦端を開こうとしていた。高い塔のマツリカは、アルデシュの穀倉を回復する奇策を見出し、戦争を回避せんとする。しかし、彼女の誤算は、雄弁に言葉を紡ぐ自身の利き腕、左手を狙った敵の罠を見過ごしていたことにあった。手を汚さずして海峡に覇権を及ぼす、ニザマの宦官宰相ミツクビの策謀に対し、マツリカは三国和睦会議の実現に動く。列座したのは、宦官宰相の専横に甘んじてきたニザマ帝、アルデシュ、一ノ谷の代表団。和議は成るのか。そして、マツリカの左手を縛めた傀儡師の行方は?超大作完結編。第45回メフィスト賞受賞作。

感想

メフィスト賞の面白さについては信頼を置いているので、この作品に関しても面白いに違いないと自信を持って読む機会をうかがっていたのだが、読み始め…特に主人公のひとり・キリヒトが「高い塔の魔女」と称されるもう一人の主人公であるマツリカがいる図書館に訪れるまでは、作品に入り込むことが出来ず、なかなか苦労して読むことになった

 

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しかし、キリヒトとマツリカが出会ってコミュニケーションをとりはじめてからは、もう止まらない面白さが広がっていく。さらに手の中で指を使って話す二人だけの新しい手話である“指話”を使い始めてからは、二人の距離感も一気に縮まり、微笑ましさと興奮を味わいながら自然と作品に向かい合っていくことが出来る。

 

ストーリー自体はファンタジー作品の割に派手な魔法や伝説の剣なども登場しないし、むしろそういった魔術の類を否定する内容となっているので、悪く言ってしまえば地味な展開が続いていくのだが、その分、本を読むことの性質や言葉や文字に対する考察は“言葉”を扱うファンタジーとして、他の作品では絶対に味わえない独特の面白さを生み出している。

 

作中でも登場するが、“文字”が連続して“熟語”それが繋がり“文章”となり“本”としてまとまりそれが大量に修められているのが“図書館”となる

 

その“言葉”の階層構造の中心人物がマツリカであるので、まさに“言葉”を操る『図書館の魔女』とは素晴らしいタイトルを付けたものだと、関心をしてしまう。

 

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ちなみに登場するほかの仲間、ハルカゼやキリンなどのキャラクターも映えているし、世界観の構築も抜群で、それぞれの国の文化や人種の違いなども物語に関わって別の次元のリアルな現実を本の中に感じることが出来る。

 

そのリアルな現実にいつの間にか引き込まれ、最後まで読み切ってしまったら、もうこの作品の虜になっているのは間違いない。そう言い切れるくらい、僕はこの作品は名作だと感じている。

 

ということで、ここから先はネタバレを含んだ作品の魅力についてポイントを書いていきたい。

 

 

深みのある世界観

まずは世界観について。

 

ストーリーを生み出しているというより、すでに存在している世界を文字で書き起こしているかのようなリアルさを感じる。サラリと書いたがこれはもの凄いことだ。ストーリーの為の世界ではなく、世界が既に存在している中に当たり前のようにストーリーが生み出されているように感じるのだ。しかもファンタジーでそれが出来るという驚きがある。

 

もともと作者である高田大介さんは、言語学者である。

 

だからなのか、使われる言葉のチョイスが(恥ずかしながら…)今まで見たことがない言葉が使われていたりする。もちろんザックリとは意味がわかるので、そこまでの支障はなく、そのやや難しいと感じられる言葉の選択こそが、この作品の独自の世界観を生み出す根幹になっているように思える。

 

そういえば、同じくジャパニーズファンタジーの傑作『精霊の守り人』の世界観を生み出していた上橋菜穂子さんも文化人類学者だった。世界観とはズレるかもしれないが、『すべてがFになる』の作者・森博嗣さんも工学博士だ。

 

学者や博士が描く小説は面白い作品が多いのだろうか?一つの分野を深く掘り下げることが出来る人間は小説においても独自の空気感を生み出すことが出来るということなのだろうか?気になるテーマが一つ増えてしまった。

 

 

指話

続いては“指話”について。

 

図書館の魔女と称されるマツリカは、膨大な本の知識とそれぞれの情報の関連付けをする頭の回転を持つが、言葉を発することが出来ない。周囲の人間とは基本的に手話にて会話をし、マツリカにとって手話こそが言葉なのだが、どうしても表現に限界があると感じていた。そこで様々なことに対して察知能力の高いキリヒトにのみ伝わる“指話”という新しい手話を開発することになる

 

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この“指話”は、はたから見るとただ手を繋いでいるだけなのに指先で会話が出来る為、周囲から何もしていないように見えるが、マツリカとキリヒトの間では実は物凄い量の会話をしていたりする。

 

作中では一歩間違えたら戦争に勃発するようなシリアスで緊迫した国際協議の最中に、
マツリカがキリヒトに対して軽口を叩いていたりするのでそのギャップも思わず笑ってしまう作品の魅力の一つといえる。

 

はじめは距離感のあるマツリカとキリヒトだったが、手を繋ぎ“指話”で会話をしながら二人で行う洞窟探索により距離が一気に縮まっていく様子は単純に読んでいて心地よい。多くの方の書評を読んでいても、この“指話”が生まれてから一気に面白くなったと書いている人も多いので、初期段階で読みずらいなと感じている人も、我慢してでもこの“指話”が登場する場面までは辛抱強く読んでみてもらいたい。 

 

ちなみに少年と少女が手を繋いでいるといえば、宮部みゆき『ICO』のイメージが浮かぶ。 

 

『ICO』では特別な力のない少年と少女が手を繋ぎあいながらお城から逃げ出す様子が描かれており、幻想的で独自の世界観が広がっていてファンタジーとして読みごたえがある。興味がある方はぜひ。

 

 

キリヒトの謎

ちょっとネタバレをするが、マツリカだけではなくキリヒトの存在もこの作品の大きな魅力と言える

 

というのも、物語の序盤ではマツリカという図書館の魔女が謎の存在だったので、読者はキリヒトと共にマツリカに振り回されっぱなしだったが、物語が進むと実はキリヒトが更なる謎の存在であるということが判明する。直前まで牧歌的な雰囲気で進んでいた中で、急に隠されていたキリヒトの立場が判明するので読み手の興奮はとんでもないことになる。

 

キリヒトの役割が判明してからは物語にまた違った側面をもたらしてくれているようで、奥行きのある世界観を感じてさらに物語の世界に没頭できるので、そこからさらに面白味が増していく。

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マツリカの魅力

あとマツリカ本人もとても魅力的に描かれていることも付け加えておきたい。

 

マツリカの年齢はまだ若く、少女の風貌をしているが、頭脳はとてつもなく明晰で相手の裏の裏のそのまた裏を読み切れるほどだ。政治的な駆け引きも内政における立場の確立も全てをその頭脳でこなしてしまうとんでもない才女、見方によっては怪物のような存在のようにみえる存在だ。

 

しかし、キリヒトといる時は若い女の子の1面をちらりと見せたりするので、その様子がとても愛らしく読者とマツリカの距離も縮めてくれている気がする。海を怖がったり、暗闇を慄いたりする様子は本当にただの女の子のようで、そのギャップも魅力として挙げておきたい。

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最後に

本音と建前が飛び交う終盤の国際協議の場面は電車で読んでいたのだが、緊迫感が凄すぎて物語に没頭しすぎたために降りるべき駅を3駅も過ぎてしまったことがあった。自分自身にまだこれほど小説に没頭して楽しめる感覚が残っていたことに心底驚いたし、その感覚が本当に嬉しいと感じさせてくれた。

 

そんなわけでこの作品を読み終えた今、心の底から湧き出てくる激しい喪失感に襲われている。もっと、マツリカとキリヒトの行く末を読んでいたいと心の底から思うからだ。

 

続編として『図書館の魔女 烏の伝言(からすのつてこと)』という作品が発売されている・・・のだが、この作品は結構焦らされる一筋縄ではいかない作品の構成が待っているので、それは次の機会にレビューを書きたいと思う。


ちなみにこの作品は“言葉”を司るファンタジー小説だけあって、作者の言葉の選択も語彙に溢れているため、読書初心者(中級者も?)は読みにくさを感じる人も多いらしい。

 

読者中級者以上におすすめしたい作品なので手に取られる方はそのつもりでどうぞ!!でも読んだらはまりますよ、絶対!!