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本橋信宏『なぜ人妻はそそるのか?』感想文:結局タブーを犯すことに興奮する生き物なのだよ、人間は!

なぜ人妻はそそるのか? 「よろめき」の現代史 (メディアファクトリー新書)

全力でスタンディングオベーションを贈りたくなるほど魅力的なタイトルの本がある。それが本橋信宏さんの『なぜ人妻はそそるのか?「よろめき」の現代史』だ。

 

作品タイトルを聞いただけで「たしかに何でそそるんだろう?」とテンションが上がってしまい、手が震え汗まみれになりながら瞳孔が開いて読みたくてたまらなくなる。というのは大げさではあるが、単純にタイトルで読みたいなと強烈に感じる本であることは間違いない。

 

そこで今回はこの作品のネタバレ感想と、自分なりに何故そそるのかを要約してまとめてみたいと思う。

 

なぜ人妻はそそるのか? 

概要

"昨今の不況のなか、世の男性陣からますます熱い支持を受ける「人妻」たち。夫人、奥さん、主婦、女房――かつてそう呼ばれた女性たちは戦後、いかにして男性を惹きつけ、「オンナ」を獲得してきたのか。

戦後、大岡昇平や三島由紀夫ら昭和の文豪、小津安二郎など映画界の巨匠が描きだした背徳的な「人妻と性」は、高度経済成長期の核家族化や団地の出現を背景に、日活ロマンポルノや写真誌、演歌といったメディアで取り上げられ、独自の文化を創り上げていく。
80~90年代、ヌード誌やアダルトビデオを賑わした彼女たちは、不倫文化を肯定するかのように、街へ、風俗へと飛び出し、表・裏メディアと現実の人妻が影響し合い「人妻」の価値が転換。「人妻だから惹かれる」時代が到来する。

メディアと現実の相互影響が育んだ「性的幻想」の究極を、アンダーグラウンド文化を第一線で追い続けてきた作家がメディア史に残る記録と証言、人妻自身の肉声を駆使して綴る、知的でココロ高鳴る文化史。"

かつてアダルト雑誌やAVや風俗の世界では、女子高生や独身OLなど、若い女性がもてはやされていた。だが、いまや人妻が大人気。男の視線は既婚女性に注がれている。それはいったいなぜか?本書は、小説や映画やテレビドラマに描かれた人妻像の変遷を追い、合わせて市井の人妻たちの生々しい声も紹介。妖艶なる彼女たちがのぼりつめてきた過程を明らかにする。

なぜ人妻がそそるのか?

という疑問を解明するというよりは、戦前から現在に至るまでの世間から見た人妻の価値の変化を当時の映画や小説から研究した作品。もう少しくだけた表現をすると“人妻に手を出しやすくなってきた経緯”が順を追って書かれている作品といえる。

 

また、後半は不倫をした人妻。もしくは現在進行形で不倫をしている人妻たちの生々しい告白が描かれているので、人妻というレンズを通して近代史を学べ、後半にはやたらエロい人妻の話が読めるという一冊で二度おいしい大変勉強になる本だった。

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感想

実際に「ぐへへっ」と言いながらこの本を手に取った訳ではないのだが、気持ち的には心の底から「ぐへへっなメンタルでこの本を手に取ったといえる。

 

ちなみに「ぐへへっ」なメンタルとはどんな感じかというと西部劇の酒場で女の尻を見ながら出る言葉のイメージ。もしくは、さわやかなカップルに絡む口の臭そうな酔っ払いが口にするような言葉のイメージ。それが「ぐへへっ」なメンタルである。要するにロクな感情ではなく下世話でエロい視線で手に取った訳だ。

 

ところが、読み始めてみると思いのほか真面目に人妻の歴史が書かれている品のある本だったので、肩すかしと知識欲が同居する不思議な感覚を味わう事になる。エロいというよりも艶めかしい人妻を、かごの外からじっくり観察しているような感覚とでもいうべきか、とにかく終始興味深くこの本と向き合うことが出来たのは良かった。

 

本書を読んだメリットとして一番にあげられるものは視野の広がりだ。事細かに人妻の歴史が書かれているので、近代史に対する視野が多角的になった気さえしている。皆さんにもその一部を味わってもらいたいので、本当にザックリと人妻という存在の歴史をまとめてみたいと思う。

 

戦前の姦通罪

作品の第一章では、戦前で姦通罪という法律がまだある時代の不倫行為について書かれている。

ちなみに【姦通罪】とは…
婚姻関係にある妻はよその男と性干渉をおこなってはならないという法律で、罰則の対象は妻と相手の男性のみ。

亭主に関しては浮気をしても逮捕されずに罰則なしというのは、現在の感覚からすると不思議だが、当時の時代背景からすると自然なことなのかもしれない。平和な時代になりましたね。

 

この時代の不倫(当時は姦通と呼んだ)は逮捕されるかもしれないというリスクを超えて行う行為だったと思うと、現在との感覚の違いも大きく感じられるのではないだろうか?

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姦通罪の廃止

現在の感覚からすると当然のことだが、日本国憲法の第14条によって男女平等が定められ、この“姦通罪”は廃止となった。姦通罪”が廃止になるとはつまり、“浮気をしても逮捕されなくなった”ということを意味している事になる。

 

別に推奨されている訳ではないが、少なくとも罪ではないということが人妻という存在に大きく影響を与えたのは間違いない。それによって人妻たちに自由恋愛を与え、周囲の男たちからも性の対象として見られる存在に変わっていったそうだ。

 

しかし、罪には問われなくなったが、人の倫理に反するという事は変わりないので、“不倫”という言葉が誕生したという訳だ。なんだか読んでいてなるほど、と大きく頷いてしまう。

 

不倫は文化なのか?

石田純一が以前、「不倫は文化」と言って世間に叩かれていた。倫理に反する行為を文化と言ってのける感覚は世の中に受け入れられるはずもないので、叩かれて当然だ。ただ、この本を読んでいると、戦前から始まる不倫を題材にした作品が大量にあることに驚かされる。

 

本書の中では、実際の体験談よりも小説や映画、ドラマなどの文化的な媒体を中心に、その時代の人妻の見られ方について書かれていることが多い。

 

具体的には、

  • 『エマニエル夫人』
  • 『金曜日の妻たちへ』
  • 『失楽園』
  • 『不機嫌な果実』

などの不倫を題材にした映像作品たちだ。

 

この本では、それら映像作品を通して人妻の時代における立ち位置を明確にしていったような印象を受ける。僕はその不倫という行為の良し悪しについて触れる気はないが、少なくとも“不倫”をテーマにした人気の映画やドラマがこれだけ生まれているのであれば、個人の感覚ではなく時代の流れとして文化の側面があることは完全に否定はできないのかもしれない。

 

あくまでも他人事としての“不倫”を第三者として眺めているだけなら、だが。

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結局なぜそそるのか?

で、結局何故そそるのかという最大の疑問に関してなのだが、どれだけ凄い謎がかくされているのかと目をギンギンにして読んだのだが、意外とその内容については想像の範囲内に過ぎなかったりする。

 

一盗二卑三妾四妓五妻

 

という言葉がある。それは男にとってどんな女性が燃えるのかの順番を示す言い伝えだそうで、一は盗む。つまり人妻を寝取ることを指し、二は秘書やお手伝いさん。三が愛人。四は娼婦で、五が正妻となる。

 

要するにタブーを犯し、危険度が高いほど興奮するという快楽の法則にのっとった感覚であり、昔から他人の妻を手に入れることは、達成感をもたらす禁じ手として存在していたことになる。

 

また、結婚をすることで本来ならモラルを守るべき人妻が、そのモラルを放棄するというタブーが、男の本能を刺激し、人妻が男を惹きつける核になっているというわけだ。んーまぁ予想の範疇かなって感じですな。

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よろめきやすい人妻の特徴

何故そそるのか?というメインの部分に関しては、予想の範疇でありショボイ結末だったが、本書の後半では、もっと魅力的な項目が存在する。ついつい夫以外の男性によろめいてしまう人妻の特徴が挙げられているのだ。おおイッツァバイブル!折角なのでP216から引用しておこうと思う。まずはこちら。

 

一、変化のない毎日に退屈している人妻。言い換えれば、外で男から声をかけられることに対して無防備な状態にある。

いつもの生活から一歩外側に行くことでついよろめいてしまうのだろうか?

 

一、出産などの人生経験を豊富に積んでいる人妻。人生経験に比例して男性に対する許容度が高くなっているため、話し相手になるだけでも自然と関係が深まる。

人生経験が豊富で許容度が高くなるになるということは、人妻が優しいと言われる理由でもある気がする。

 

一、主婦として家計をやりくりしている人妻。男性のおごりやちょっとしたプレゼントを進んで受け入れる。

経済的な部分で優遇してもらう感覚は未婚の時に奢ってもらう感覚を取り戻すきっかけになるのかもしれない。

 

一、主人との○ックスがマンネリ化している人妻。独身女性と比べて変化に乏しく、新たな刺激に弱い。

人間は新しい刺激を求める生き物なのかもしれない。あとは“何に対して”刺激を求めるかの判断だけだ。

 

一、ある程度の年齢を重ねている人妻。男の白々しい褒め言葉でも、思わず嬉しく感じる。

寂しさのあらわれの典型的な例かもしれない。人が自分を見てくれる嬉しさは理解できる。

 

一、人間としてある程度できあがった夫をもつ人妻。夫とは反対のタイプである、経済的、社会的に弱者の立場にある男につい味方してしまう。

結局のところないものねだりをしてしまうのかもしれない。

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最後に

この本を購入するときに、本屋で店員に「なぜ人妻はそそるのか?という本を探しているのですが?」と声をかけていた。

 

僕としては、単純に読みたいと思った本の題名を聞いただけだが、言ったあとに、「僕は何を言っているんだろうか…」と冷静になって、自分の行動を恥じてしまった。

 

聞いた相手が男性店員で本当に良かったと今になって震えがきてしまう出来事だ。いや、もしその相手が人妻だったら何か面白いことでも生まれたかもしれないので、それならそれでよかったのかもしれないが。

 

何にせよこの本を読んで人妻に対する造詣が深くなり、さらに近代史の視野も広がったので大変勉強になる本を手に取ることが出来て良かった。興味が生まれた方がいたらぜひ読んでいただきたい。人妻はそそるのですよ。