ムハマド・ユヌス『貧困のない世界を創る』感想文:ソーシャルビジネスを生み出した男の理想とする世界とは?

基本的には小説の感想を自分勝手に書きなぐっている事が多いのだが、今回は珍しく小説以外の真面目な著書の感想と紹介をしたいと思う。今日の記事メッチャ真面目。たぶん全然面白くないです

でも素晴らしい内容の本なので、少し前の本ではあるが感想と紹介文を書いていきたいと思う。やや政治的な主義の話が出てくるかもしれないが、あくまでも客観性に重点を置きつつ個人の意見を書くつもりだ。

ゆえに特定の思想や政党を応援しているわけではないので、ご理解いただければと思う。

貧困のない世界を創る

内容

人の思いやりと自由市場の力学を融合させ、社会問題を解決する新しい企業、「ソーシャル・ビジネス」とは?その壮大な構想と巧みな実践を情熱豊かに綴る。2006年度ノーベル平和賞受賞後初の著作。
引用:amazon

ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏の情熱的な著書。『マイクロクレジット』や『ソーシャルビジネス』などの貧しい人々の為の様々な革新的なアイデアを生み出し、多くの貧困者を救っている。

この本では、

  • フランスのダノン社との合弁事業である「グラミン・ダノン」の経験談
  • グラミングループが行ってきたこと
  • 「ソーシャルビジネス」とは何か
  • 貧困のない世界とは何か

などが描かれている。

著者:ムハマド・ユヌスとは?

ムハマド・ユヌス Muhammad Yunus

1940年、バングラデシュ・チッタゴン生まれ。チッタゴン・カレッジ、ダッカ大学を卒業後、チッタゴン・カレッジの経済学講師を経て、米ヴァンダービルト大学で経済学博士号を取得。
1972年に帰国後、政府経済局計画委員会副委員長、チッタゴン大学経済学部学部長を務めて教鞭を執るが、1974年の大飢饉後に貧しい人々の窮状を目の当たりにして以来、その救済活動に目覚め、1983年にはグラミン銀行を創設。

マイクロクレジット(無担保少額融資)で農村部の貧しい人々の自立を支援する手法を全国で展開し、同国の貧困軽減に大きく貢献した。これが多くの国際機関やNGOなどの支援活動の模範となり、現在では全世界で1億人以上がマイクロクレジットの恩恵を受けているといわれている。ここまでの彼の歩みについては、『ムハマド・ユヌス自伝──貧困なき世界を目指す銀行家』(早川書房)に詳しく語られている。
また全方面からの貧困撲滅を目指すユヌスとグラミン銀行は、貧しい人々の住宅、教育、医療などを支援するサービスを次々と開発するのみならず、多くのグラミン関連企業を創設して、地場産業の振興、携帯電話やインターネットの普及、再生可能エネルギーの利用などをも推進している。そのいくつかは、彼の提唱する「ソーシャル・ビジネス」の形で運営されている。
これは株主の利益の最大化ではなく、社会的利益の最大化を目標とする新しい企業体であり、会社を持続可能にする収益を保ちながら社会貢献ができるという点で、企業の社会的責任(CSR)や慈善事業に代わる概念として注目を集めている
引用:amazon

元々は経済学の講師なんですね。そのあたりの経緯は本書にも書いてあり、学者的な立ち位置から、その真逆のグラミン銀行を創設するあたりがとんでもない経歴といえますね。

そこから貧困者に対して少額の融資を行う『マイクロクレジット』や、『ソーシャルビジネス』という概念を生み出しバングラディッシュの貧困層を救ってきました。

ちなみにムハマド・ユヌスには「アジアのノーベル賞」といわれる「マグサイサイ賞」「世界食糧賞」「日経アジア賞」「福岡アジア賞」等の国際的な賞が贈られています。

また、2006年にはユヌス本人とグラミン銀行に対して「ノーベル平和賞」が贈られてます

雇用は貧困を救わない

この本を読んでいて気になった部分を一部引用していきたいと思います。まずはこちら、

P102

貧困問題の解決法はすべて雇用を作り出すことにあるというもの、すなわち貧しい人々を救う唯一の手だては、彼らに仕事を与える事だという仮説である。
~中略~
それは素晴らしい理論である。ただし、これはうまくいかない。経験上、それを支えるのに必要な条件が揃ったためしがないのだ。

とある。つまり『雇用は貧困を救わない』ということを言っています。

これは非常に驚くべき言葉です。一般的な感覚からすると雇用が拡大することで経済が廻り潤い、それによって貧困がなくなる事は常識のように感じていたからです。

過去にも米フランクリン・ルーズベルト大統領がニューディール政策を行ったように、恐慌や貧困が発生した場合には、公共事業等の雇用を増やすことで経済を活性化させているイメージがありますが、それは全てに当てはまる事ではないようです。

特に最下層にいる貧民からすると、雇用されたところで一日の収益は生活費で消え、あらたに商売を始めようとしても、金貸しからお金を借りないと商売は始められず、その金貸しへ払う利子で利益のほとんどが持っていかれる状態とのこと。

そこで生み出されたのが『マイクロクレジット(無担保少額融資)*1』ということになります。

ソーシャルビジネスとは?

では本書で取り上げられている『ソーシャルビジネス』とは何だろうか?本書では、

P152
つまり最も困窮している人々に直接的な利益をもたらしながら経済成長を促す何百もの会社を育てるアイデア、それこそが、ソーシャル・ビジネスなのである。

という基本理念が書いてある。が、これだけではわかりにくいので、さらに他の部分の内容をザックリまとめて補足すると、

資本主義社会における会社は利益の最大化を目的とするが、ソーシャルビジネスの会社は社会的利益の最大化を目指しつつ、それが慈善事業ではなく会社として自己持続型の運営が可能な組織として成立させる。

ということになる。慈善事業のようにチャリティーのお金の使い方ではなく、人を救いつつ会社として成立させるという考え方だ。それは夢物語ではなく、本書ではその具体的な手段と、ユヌス氏とグラミンファミリーのの実体験が書かれている。

貧困とは何か?

貧困とは何か?貧困は何を引き起こすのか?どこか遠い場所で起きている気になっていた貧困についても書かれている。

P176
貧困は、人々に困難と不幸の中で生きる事を強いるだけではない。生命の危険に人々をさらしかねないのだ。貧困は運命をコントロールしようとするあらゆるものを人々から奪うため、人権の究極の否定になる。言論や宗教の自由がどこかの国で侵害されたときに、世界的な反対運動が組織されることはよくある。しかし、貧困が世界の半分の人口の人権を侵害しても、私たちの大部分は、その考えから頭を振り払って人生を続けていくのだ。

思わずハッとしてしまった部分。権利と自由についての反対運動は行われるが、
確かに僕たちは世界の貧困に関しては頭から諦めてしまっている部分がある。

P176
同じ理由から、貧困はおそらく世界の平和に対する重大の脅威であろう。暴力と戦争を推し進めるものとしてよく挙げられるテロ、宗教原理主義、民族対立、政治競争、そしてどんな軍事力よりも、貧困は危険なものである。貧困は希望を失わせ、人々を捨て身の行動に駆り立てるのだ。実際、持たざるものには暴力を控える十分な理由がない。彼らの状態をより良くする小さなチャンスに乗じて行動することが、何もせずにただ運命とあきらめて受け入れることよりもずっとましに思えるからそうするのだ。

こちらも思わず頷いてしまう内容。争いの根本的理由に貧困があり、その根本的な理由の排除なくして争いは無くならないのかもしれません。

感想

月並みな感想だが、心から自らの糧となる著書に出会えたと感じている。作中で『ソーシャルビジネス』とは、資本主義のミッシングピースであると書かれている。

P173
ソーシャル・ビジネスは、資本主義システムの失われた断片(ミッシング・ピース)である。ソーシャル・ビジネスのシステムを導入していくことにより、現在主流となっているビジネスの考え方の外に残された非常に大きな世界的問題に取り組む力が資本主義に備わり、そのシステムを救うかもしれない。

マルクスが『資本論』で資本主義経済の下では格差社会と独占を生むことを予期していたが、これは資本主義の問題点を突いているだけで、資本主義そのものを否定している訳ではないと思っている。

その資本主義社会の問題点(不足点)を補う為の現実的な正解の一つが、この『ソーシャルビジネス』なのではないだろうか。

これだけが唯一無二の正解などと言い切るつもりはないが、資本主義と社会主義の利点・特徴が綺麗に融合しているような印象を受け、貧困がなくなる美しい世界をリアルに想像してしまうような内容だった。これからも社会の中で追いかけていきたい言葉だと感じている。

最後に

今回は書評・感想というよりも、ノーベル平和賞を受賞したユヌス氏の『ソーシャル・ビジネス』という考え方が少しでも世間に広まればいいと思い書いた文章なので、もしかしたらクソ面白くもないかもしれない。

それでも、これからまさに新しい世界が生み出されていくのであれば、その考え方を生み出した人とその経緯を書きなぐることで、少しでも皆さんの役に立てればと思う。

超真面目。本日はここまで。

*1:引用:Wikipedia:失業者や十分な資金のない起業家、または貧困状態にあり融資可能でない(商業銀行からの融資を受けられない)人々を対象とする非常に小額の融資(ローン、クレジット)である。