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和田竜『忍びの国』小説感想文:耐え忍ぶのではなく金を懐に忍ばせる事が伊賀忍者の生きがいである

忍びの国 (新潮文庫)

海外から見た日本のイメージは、未だに侍や忍者から脱却できてはいないのかもしれない。

 

海外向けの日本人のパフォーマンスはどうしてもSAMURAIでありNINJAをしておくのが無難であることは昔から変わらず、未だにチョンマゲ姿に袴を着ている人たちがTOKYOの街を闊歩していると思っている人たちもいると聞く。

 

ただそれは、裏を返せば忍者や侍という存在にそれだけの魅力があるともいえるのではないだろうか。今回はそんな魅力にあふれた忍者を題材にした、和田竜さんの一風変わった時代小説『忍びの国』のネタバレ感想と紹介をしていきたいと思う。

 

 

忍びの国 

あらすじ

時は戦国。忍びの無門は伊賀一の腕を誇るも無類の怠け者。女房のお国に稼ぎのなさを咎められ、百文の褒美目当てに他家の伊賀者を殺める。このとき、伊賀攻略を狙う織田信雄軍と百地三太夫率いる伊賀忍び軍団との、壮絶な戦の火蓋が切って落とされた──。破天荒な人物、スリリングな謀略、迫力の戦闘。「天正伊賀の乱」を背景に、全く新しい歴史小説の到来を宣言した圧倒的快作。

出典:amazon

戦国期の天正時代。 無双の強さを誇る主人公・無門と、徹底して金に拘る伊賀者の忍者たちを中心に据えて天正伊賀の乱を描く歴史小説。

 

フィクションだが、天正伊賀の乱を題材としているので織田方と伊賀方の争いが描かれており、

  • 織田信雄(おだ のぶかつ)を中心にした織田方。
  • 十二家評定衆を中心にした伊賀方。
  • そして伊賀者の中で圧倒的な実力を持つ無門

という三者の思惑が交差する物語になっている。

 

・・・なんていう風に書いてしまうと小難しいが、名前を覚えるスタートさえ乗り切ってしまえば、あとは自動的に読めてしまう面白い作品だ。

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感想

読み終わって感じることは、単純にエンターテインメントとして最高に面白い物語であるということ。そしてその面白さは伊賀忍者たちのキャラクターから生まれてくるのではないかと思う。

 

伊賀忍者はとにかく金に汚い

 

いや、いっそ潔く美しいまでに金にのみ執着しているので、精神戦も卑怯と言われるような手もなんでもあり、とにかく金の為に徹底して勝利にこだわるという伊賀の忍者団の個性が強烈だ。ここまで金に徹底していると逆に清々しさすら覚えるのが面白く、さらに登場人物たちが人間的に優しくないので、裏切られようが殺されようが、ほとんどのキャラクターに対してなんとも思わないのも読みやすいように思える。

 

主人公の無門にしても同じく全体的にドライな性格で、唯一お国に対してのみ感情が揺れるが、他の事では他人が生きようが死のうが何事もなかったかのように生きていく。それだけに最後まで読んでいくと、天下無双の無門お国の二人の結末が泣けてしまうので、主人公・無門と物語のバランスが非常に良かったと感じられる

 

また、忍術として相手の裏をかいて政治的戦略をたてている所も面白い。それぞれの策略が相手にどこまで漏れているのか。そもそもどこまでが策略なのかを想像すると思わずニヤニヤしてしまう。

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感情移入問題

作品としてとても面白いのだが、同時に悩んでしまったのは、誰に感情移入して読めばいいのかわからなくなる時があることかもしれない。

 

同じく和田竜の他の作品である『のぼうの城』では成田家に感情移入できたし、『村上海賊の娘』では村上家に感情移入できた。勧善懲悪とまではいかないまでも、読者が肩入れをする軍があった。

 

しかし、この作品では、織田軍も感情移入しやすい人柄ではなく、伊賀忍者たちも基本は金に汚いゲスばかり。主人公の無門にいたっては、基本的にぐうたらで働く気もなく、お国に言われないと動かないので、やはり自己投影が出来ない。

 

唯一、人としてまっとうなのが、「おのれらは人間ではない」と言い放ち、伊賀を捨てた平兵衛

 

この「おのれらは人間ではない」という言葉が一番伊賀者を正確に表している言葉で、人間としての感情の一部が欠落している彼らの教育方針に対する評価なのかもしれない。

 

最後のギリギリでなんとか無門に感情移入できたのは、平兵衛と同じように無門も、「おのれらは人間ではない」と言い放ち闇に消えたからに違いないと思う。

 

まぁ誰にも感情移入できずとも面白いものは面白いので構わないのだけどもね。ちなみに主人公が無双だったり戦争に巻き込まれることなどから、同氏の作品の中では『小太郎の左腕』の雰囲気に一番近いと思っている

 

金こそすべて

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伊賀者たちが何よりも徹底している事。それは金を稼ぐということだ

 

金を稼ぐことが正義で、金を稼ぐためなら卑怯なことも精神的に揺さぶることも何でもアリという集団。ある意味ではとても真っ直ぐな人たちに思えなくもない。人の命よりも金。忠義や恩よりも金。さらにいえば国よりも家族よりも金を欲する。

 

作品としてはどことなくポップに金を欲しがる彼らが描かれているが、実際の所、当たり前のように明るく金を欲する彼らは猟奇的に感じる場面が多く、最終的に滅びの道を歩んでいくのも分かる気がする。

 

 

無門の変化

様々なことに無頓着な無門だが、お国のことに関してだけは別だ。


忍びの残忍さや非道さが生々しくリアルに描かれている中で、ヒロイン・お国と無門が話している場面だけは肩の力が抜けるような描写になっている。幼い頃から最強の道具として感情を持たず務めを果たせるように育てられており、武力と非情さの中で生きてきた無門が、お国といるときは尻に敷かれ情けなく、それでいてとても人間的になる。本来の無門の性格はきっとこういった性格なのだろうが、最後の最後までその人間的な蓋は解放されない。

 

そして、お国が殺されることによって人間としての感情の蓋が開くのだが、同時にもはや人間として生きるのではなく復讐の修羅と化しているかと思うと切ない気持ちで溢れてしまう。

 

またクライマックスで信長の枕元に忍び寄り、信長軍そのものを利用して伊賀国を滅ぼす場面は思わずため息が漏れるようなやり口で、同時にお国亡き後に訪れる、最高の結末とも思えた。 

 

解説の児玉清さん

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出典:花 風 林

この作品の解説は児玉清さんが書かれているのだが、どの作品でも児玉清さんが書かれた解説は素晴らしい

 

作家と作品をリスペクトしており、同時に無秩序に褒めたりせず、自分が素晴らしいと思った事を素直な文章で伝えてくれる。読み終わってから解説を読んだ方には「そうそう!そうなんだよ」と共感を呼び、先に解説を読んだ方には「なんて面白そうな物語なんだろう!」と興奮を促す素晴らしい解説を書かれている。

 

この作品においても同様。特に忍びが主人公の作品において、

奇想天外、超絶技巧で読者の心を天高くどこまでも飛翔させる面白さの裏には、しっかりと大地に根を下ろしたリアリティがなくてはならない。~本書解説より~

と、リアリズムがあることで忍者・忍術というフィクションが生きてくるという独自の思いを語られており、同時に登場人物たちの背景や距離や時間軸などの一部をわかりやすく解説している。児玉さんは自身の知識の深さをひけらかすことなく作品により一層の深みを与えている素晴らしい解説を書かれているので、是非読み飛ばさずに最後までもらいたいと思う。 

 

映画化情報

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www.shinobinokuni.jp

この小説『忍びの国』を原作にした実写映画が2017年7月1日上映予定で制作されている。キャストは以下の通り。ビジュアル解禁もされていて結構雰囲気が出ています。

 

無門:大野智(嵐)

お国:石原さとみ

織田信雄:知念侑李(Hey! Say! JUMP)

日置大膳:伊勢谷友介

下山平兵衛:鈴木亮平

北畠凛:平祐奈

長野左京亮:マキタスポーツ

 

凄まじくゴージャス笑。

 

公式サイトに予告編も上がってましたし、結構前(2016年8月?)にエキストラの募集もしてましたし、映画館にフライヤーも並んでいました。時期的にもうクランクアップもしてるでしょうし、折角だから見に行きたい。

 

試写会・舞台挨拶も是非行ってみたいので応募してみようかと思う。無門の手裏剣の軌道を映像で観れるのはテンションがあがるに違いない。小説と最後の結末は変わるのかも気になるところです。

 

最後に

忍者という素材自体が絵の力が強いので非常に映像化に向いていると思う。そんな中でもこの『忍びの国』はアクションだけでなく、いくつもの思惑が交錯する人間ドラマとしても楽しめるので、映像に起こしたら楽しめるに違いない。

 

そう感じることができるのは、きっと和田竜が描く小説が脳内で映像として浮かび上がるような、リアリティーと華やかさを含んだ作品であるということなのだと思う。