読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

フォレストラバー

気になることや好きなことを淡々と

津村記久子『ミュージック・ブレス・ユー!!』感想文:音楽に救われる低空飛行のパンクロック少女の青春の1ページ!

ミュージック・ブレス・ユー!! (角川文庫)

思春期の頃、音楽に心を救われた人たちは多い。

 

日常の鬱々としたやり場のない気持ちを、爆音で好きな音楽を聞くことで受け止めてもらうことは、割と多くの人が味わったことがある苦くも懐かしい経験なのではないかと思う。かくいう僕も例に漏れず、音楽を聞くことで現実逃避をしていたことがあるが、その現実逃避の時間は当時の自分に必要な時間だったのだと思えるようになっている。

 

この文章を読んでくださっている人の中にも、音楽に救われた経験がある方がいるかもしれない。もしくは、今まさに音楽に救われている人がいるかもしれない。

 

今回書評を書きたいと思っている津村記久子さんの小説『ミュージック・ブレス・ユー!!』の世界にも音楽に救われている主人公が登場する。音楽と共に過ごす、笑顔だけではない青春の1ページを切り取ったこの作品の魅力が少しでも伝われば嬉しい。

 

 

ミュージック・ブレス・ユー!! 

あらすじ

オケタニアザミは「音楽について考えることは、将来について考えることよりずっと大事」な高校3年生。髪は赤く染め、目にはメガネ、歯にはカラフルな矯正器。数学が苦手で追試や補講の連続、進路は何一つ決まらないぐだぐだの日常を支えるのは、パンクロックだった!超低空飛行でとにかくイケてない、でも振り返ってみればいとおしい日々。野間文芸新人賞受賞、青春小説の新たな金字塔として絶賛された名作がついに文庫化。

引用:amazon

津村記久子作品。2005年デビュー作『君は永遠にそいつらより若い』で第21回太宰治賞を受賞(『マンイーター』を改題したそうで、改題後のタイトルのセンスが素晴らしいと思う)。

 

また、今作『ミュージック・ブレス・ユー!!』は2008年に第30回野間文芸新人賞を受賞している。実は今までほとんど追いかけてこなかった作家だっただけに、この作品を読んだ時の衝撃が大きかった。

 

この作品は村上龍の『69 sixty nine』に少し似て文字にエネルギーが込められているような文章で、主人公のアザミが上手くいかない高校生活の中で起きた出来事や感じたことが独自の視点で語られる。

 

10代の頃に多くの人が感じていたけど、上手く言葉にできなかった感情。

 

「なぜ自分の人生は上手くいかないのか」

「なぜそんな理不尽がまかり通るのか」

「大人が作り出したタイミングで生きなきゃいけないのか」

 

そんな感情がアザミの行動と感情でリアルに描かれており、時に闘い、時に諦めと脱力に包まれて過ごす10代のリアルな感情表現は感動すら覚える。ホント津村さん凄い。 

f:id:nukya-e:20160905110903j:plain

 

感想

読んでいて、この作品には2つの独特のリズムがあるから魅力的に感じられるのではないかと感じた。

 

→文章のリズム

一つ目は津村記久子さんの書く文章としての独特のリズム

 

アザミが感じ考える内容はもちろん、起きた出来事も独特の詰まった変則的なリズムで描かれている。その独特なリズムが妙な面白さを感じさせてくれるので、読んでいるとずっとニヤニヤしてしまう。

 

特に親友のチユキを冷たく振ったオギウエへ、ボロクソに暴言を吐くシーンは最高だ。言いたいことがあったら言うと頭を切り替えたアザミにいきなりスイッチが入り、「腐れデブ!推薦落ちろ!次の試合負けろ!」などと罵るのだが、今までのアザミのキャラとは思えないような変調をみせる。

 

この作品には似たようなガラリとリズムが変調する場面がいくつもあり、それが作品の面白味を生み出しているように感じる。

 

→アザミの人生のリズム

二つ目は物語の中でアザミが自分の人生を選択するリズム。

 

これは学生時代に僕自身も感じていたことなのだが、生きていればそれぞれに適したタイミングが存在するはずなのに、受験や進路を決定するタイミングは学校(社会)に強制的に決められてしまう

 

周囲が先に進んでいく中、なんとなく流れで受けた大学も落ち、自分の進むべき道も不明確なままで立ち止まるアザミに感情移入しすぎて読んでいてつらくなってしまった。本来ならば、スローペースでもアザミは自らのリズムがあるはずの子なのだが、当然社会はそのリズムを待ってはくれない。しかし、それを理解して多くを言わないアザミの両親の温かさにだけは、少しだけ救われる。

f:id:nukya-e:20160905111110j:plain

 

作品名の魅力

Music Bless You』という作品名は『音楽の祝福がありますように』といった意味で、元々は『God Bless You』(神の祝福がありますように)から変換された言葉だ。

 

音楽を聞くことに没頭し、音楽を愛して依存して崇拝しているアザミが、高校生活を送っていく中で少しずつ成長していく(解説では「賢くなる」と表現されていた)のだが、良くも悪くもアザミにとって音楽は神様と同じような存在だ。

 

しかし、音楽だけを聴いていても生活していくことは出来ないという現実がある。そして、アザミ自身もその事に気が付いている。神様は心のよりどころだが、何もしてくれない。音楽もアザミの心のよりどころだが、社会的に救ってくれはしない。結局のところ、自分の意思で自分の人生を切り開くしかないのだ。

 

だからこそ『ミュージック・ブレス・ユー!!』という言葉にこめられた、「直接助けられないけれど、音楽はアナタを応援しているよ!!」というメッセージが生きてきており、これしかないと思える素晴らしいタイトルに感じられるのではないだろうか。

f:id:nukya-e:20160905111031j:plain

 

音楽の祝福

また、アザミの性格を生み出している要因に劣等感と諦めの感情がある。

 

途中で発達障害の描写があるので、恐らくアザミは軽度の発達障害なのだろう。そのことに本人も薄々気がついており、物事を上手くこなせなかったり、両親に期待されない自分を最初から諦めて生きているようにみえる。


自分自身を諦めて冷静に客観的に見ているからこそ、自分の事なのに妙に他人事なアザミの視点つい笑顔になってしまうような思考回路が生まれているのではないだろうか。

 

それでもそんな諦めの感情の中、アザミが日々をフラットに過ごせるのは音楽の存在があるからなのは間違いない。結局のところ『ミュージック・ブレス・ユー!!』のタイトルの通り、アザミは音楽の祝福を受けていることになる

f:id:nukya-e:20160905111140j:plain

 

成長を描くラストシーン

アザミよりも重度の音楽マニアのトノムラの存在も物語にアクセントを加えている。アザミはトノムラという存在を自分と同じ・似ていると評しながらも、近づいていって仲良くなろうとはせず、むしろ可哀想・苦手と感じている。

 

自分を外側から見ているような感覚で、トノムラを見るアザミ。それは同族嫌悪かもしれないが、少なくとも劣等感を持つアザミには多少の安心感を感じさせているように感じた

 

トノムラを見て客観的になり、ラストではチユキと離れて一人になることで、まわりに合せて生きていたアザミが、自発的にやりたい事の方向性がようやく見えてくる物語の締めは素晴らしい。まだまだ、形にならず明確な進路は見えないかもしれないが。遠くの景色に希望が見えるようで少し胸が軽くなるエンディングだった

 

 

最後に

音楽は心のよりどころにはなるが、音楽そのものが自分の人生を助けてくれるわけではない。その考え方が、僕には妙にシビアでむき出しに感じる。強烈な現実を突き付けられているように感じる。

 

だからこそ『Music Bless You』(あなたに音楽の祝福がありますように)というタイトルが厳しい現実の中でも、弱者の背中を力強く押してあげる優しいタイトルに思えてならないのだ。


本当に素敵な作品なので、是非皆さんにも読んで頂きたい。