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誉田哲也『増山超能力師事務所』感想文:人情味あふれるハードボイルドSF作品という新しいジャンルが生まれる!

芥川ヌキ之介(著) 本-小説

増山超能力師事務所 (文春文庫)

超能力』と聞くと僕は小さいころゴールデンタイムのテレビで行われていた超能力者の特番を思い出す。スプーンを曲げ、念写をし、箱の中身を当てる彼らに胸が躍っていた。

 

超能力の存在の有無をここで語るつもりはないが、ああ僕に超能力があったらTVなんか出ないで、あんな事やこんな事で大儲けするのにな。もしくはアソコをああしたり、ソコをこうしてムフフで鼻血な日々を送れるのになぁといつも思っていた。煩悩の塊すぎて自分でも情けないのだが

 

そんな憧れの超能力者たちが登場する小説がある。姫川玲子シリーズ・武士道シリーズなどでおなじみの誉田哲也さんの作品『増山超能力師事務所』だ。今回はこの作品のネタバレ感想と紹介をしていきたいと思う。お付き合いいただきたい。

 

ドラマの感想はコチラ!! 

 

増山超能力師事務所 

あらすじ

信頼と実績の当事務所が超能力でお悩み解決!超能力が事業認定された日本で、能力も見た目も凸凹な所員たちが、浮気調査や人探しなど悩み解決に奔走。笑いとほろ苦の連作短編集。日暮里駅から徒歩10分。ちょっとレトロな雑居ビルの2階にある増山超能力師事務所―。所長の増山率いる、見た目も能力も凸凹な所員たちは、浮気調査や人探しなど、依頼人の悩み解決に今日も奔走。超能力が使えても、そこは人の子。異端の苦悩や葛藤を時にユーモラスに時にビターに描く人気シリーズ第1弾。

出典:amazon

超能力が一般的に認められた世界での探偵物語。

 

超能力を使える人間たちが、『超能力師』という免許を取得して仕事を受けるのだが、『一級』『二級』などの区別があったり、実際は超能力はそんなに便利じゃなかったりと、細かいディテールにこだわってこの世界が作られている所に好感が持てる。章によって語り手の視点は変われど、物語の中心にいるのは所長の増山で、その増山を中心にこの物語が展開していく。

 

超能力師とは?

感想の前に、この作品の世界での超能力という存在について少し書いておこうと思う。

 

まず、超能力を使える人間は試験を受けて『1級超能力師』と『2級超能力師』の資格を取得できる。超能力師の『』が『』ではないのは、『士』にすると『超能"力士"』となり、力士みたいだからという理由だそうで、微妙に肩の力が抜ける理由だ笑。ちなみに、それらの資格を持っていない人は『無能力者』という立場になる。

 

作品では無能力者の研修生として超能力師試験に挑んでいた高原篤志が『2級資格』を取得して初仕事に挑む所から物語が始まる。しかし、超能力師になったからといっても、どんなことでも万能にこなせるわけではない。

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超能力で出来ること

超能力といっても一瞬でテレポートしたり、宙に浮いたり出来る訳ではないし、出来ることにもさまざまな制約がある。

 

出来ることは人の心を読む事。物を触って残留思念を読み取る事。あとは人によっては離れた物を動かしたりする事も出来るが、その力は非常に弱い。他にパイロキネシス(発火能力)などの危険能力などが例外的にあるが、使用禁止の事項にあたるので、実際に出来る事と言えば、探偵業などで役に立つ調査的な部分で役に立つくらいで、超能力者たちは偏見等を含めて、実生活では嫌な思いをすることの方が多いという物語だ。

 

一般人との違い

超能力を使える人間と使えない人間との差についても触れておこう。超能力が使える人物は基本的に幼少期に能力に目覚め、ほとんどの場合両親がその能力に気が付く。それは固定概念がない幼少期の方が能力に対する制御が低い為と言われている。

 

ゆえに大人になってから能力に目覚めるケースは非常に少ない…のだが…。その例外こそがこの作品の肝になってくるので、是非そこの部分は作品を読んで頂きたいところだ。

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感想

単行本の表紙を見る限りだとコメディータッチの作品かと思ってしまったが、実際は脱力系コメディSFに見せかけたハードボイルド人情SF作品……という新しいジャンルの小説。たぶん。

 

連作短編でそれぞれの章によって視点が違うので、それぞれにどんな印象を持っているのかが少しずつ理解出来て面白い。特に増山と明美への印象の変化が激しく、読み初めの登場時の印象と作品を読み終わってから印象に大きな違いを覚える。

 

増山の人間的な深みから生まれる格好良さと、明美の見た目とは裏腹の人生経験は一見するとわかりにくい人間の深みを感じさせる。無言の美学ではないが、人に簡単に伝えない事が人間の味になっていくのかもしれない。どのChapterでも結局増山が人間の味を見せつけて格好いいので読者としては増山に惚れてしまう、笑。

 

さらに、主人公と呼べる増山に関してだけは周囲からの印象しかないのでそれも面白い工夫だなと感じた。文乃の件やまだ回収されていない伏線もあるので続編が楽しみな一冊

 

 

視点の変化

この作品は全部で7話で構成されているのだが、それぞれの作品で語り手が変わっている。その語り手の変化で増山超能力士事務所のそれぞれの印象が多角的になり、さらに所長にして主人公の増山という人間を立体的に浮かび上がらせる手法を取っている。それぞれの話と視点は以下の通り。

 

  • Chapter1『初仕事はゴムの味』は2級超能力師に受かったばかりの高原篤志の視点。
  • Chapter2『忘れがたきは少女の瞳』はクールなブサイクである中井健の視点。
  • Chapter3『愛すべきは男の見栄』は無能力者だが人を見る目を持った事務方の大谷津朋江の視点。
  • Chapter4『侮れないのは女の勘』は1級超能力師に限りなく近く増山の愛人でもある住吉悦子の視点。
  • Chapter5『心霊現象は飯のタネ』は元増山の右腕で現在独立しているモテないイケメン河原崎晃の視点
  • Chapter6『面倒くさいのは同性の嫉妬』は事務所の新人の宇川明美の視点。
  • Chapter7『相棒は謎の男』は増山の友人でもある警察の榎本克己の視点。

 

それぞれの視点から読めるので、お互いの印象が見えやすく、増山の視点がないので本人の意見はわからないが、少なくとも周囲の人間からは一目置かれている存在であるのは間違いない。特に3話、4話、6話の女性目線の話では特に増山が深みのある格好いい男として描かれる。女性に好かれるというよりもいい女に好かれる男って感じに描かれているような気もする。

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100%受け入れられてない超能力

超能力師たちが一般人からはまだ偏見の目で見られているという背景設定もこの作品の特徴だ。能力者たちは心が読めるので警戒されたり疑われたりするし、マイノリティであることでいじめも発生する。

 

そういった過度の期待や偏見の目は登場人物たちにとっては悩ましくもあるのだが、いかに超能力師といえども「神」ではないのだ。なんでも手かざしたら見通し!というわけにはいかない。能力にも得意、不得意があるし、集めた証拠を特別な力を持たない依頼者に提示する苦労もある。

 

増山はそんな偏見などが起こらないように能力者と一般人の共存を可能にするために、超能力師協会の設立に尽力していたようだ。(本編では細かく描かれていないのだが…)程度の差はあれど、このままシリーズが続けば『X-men』のような人類とミュータントの共存みたいな壮大な話になる可能性もある

 

大切なことは超能力ではなく

あくまでも超能力が中心になっている物語であることは間違いないのだが、この作品で本当に大切にされていることは超能力以外の部分だ。

 

大谷津朋江の亭主がサラリと言って流すセリフが、この作品の確信を突いている気がする。

人の心ってのはな、読んだり覗いたりするもんじゃねえ……察するもんだ

-作中より-

人の心を察するという言葉は、その根底に優しさが根付いているように思えて心地良く、こんな言葉をぶっきらぼうに話す朋江の亭主は、増山と気が合いそうだなと思うと、少しだけニヤリとしてしまう。超能力も使えて人間も見て感じることが出来る増山の魅力を改めて感じる言葉だ

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『春を嫌いになった理由』誉田哲也

ほかに超能力を題材にした小説として、同じく誉田哲也さんの『春を嫌いになった理由(わけ)』という作品もある。 

表紙を見たらやたら爽やかな表紙なので、てっきり爽やか系の話かと思っていたら、霊能力と殺人の話だったので驚いたという思い出がある。

 

この作品ではテレビと霊能力が組み合わさっているので、中島らもさんの『ガダラの豚』を彷彿とさせる作品になっている。(ガダラの豚は傑作なのでそのうち書評を書きます。)霊能についての造詣の深さは『ガダラの豚』に遠く及ばないと僕自身は思っているが、同時進行で進む中国から不法入国してきた兄妹の話と、メインの話が存在してリンクしてくる面白さは『春を嫌いになった理由』の特徴でもあるので、非常に楽しめると思う。

 

最後に

超能力を題材にした小説ではあるが、読み終えてみると超能力の凄さを楽しむ作品という訳ではない

 

現実世界と同じように、まず個人の問題があり人と人の間に生まれる問題があり、誉田哲也が描きたかったのは、超能力という媒体を使った人間の物語で、その模範として格好よく描かれているのが増山という男なのかもしれない。

 

多少男に都合よく描かれた超能力ハードボイルド作品ではあるが、性別問わず楽しめる作品なので是非手に取ってみてほしい。2016年12月現在では『増山超能力師大戦争』という続編の情報もあるので、楽しみにしたいところだ。