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孤狼の血の続編『凶犬の眼』感想文!正義と仁義…貫くべきはどちらか?|柚木裕子

凶犬の眼

柚木裕子『凶犬の眼』を読んだ。

 

前作『孤狼の血』の男くさいハードボイルドな雰囲気を気に入ったので、その続編にあたるこの作品も貪るように読みふけてしまった。 

続編もやはり面白い。

前回の流れを生かしつつスリリングな展開を見せ、次回作に助走をつけるかのような力強い作品になっている。なんという安定感だろうか。

 

というわけで、今回はその『凶犬の眼』のネタバレ感想を書いてみたいと思う。

ちなみにタイトルは普通に変換される

犬の眼』

ではなく、

犬の眼』

なのでご注意を!

 

あと、一応言っておくが、前作『孤狼の血』を読んでいない方はこの記事を見ても面白くないと思うので、このページを閉じて作品をサクッと読んだ方がいいと思う。あしからず。

 

 

 

凶犬の眼 

 

あらすじ

所轄署から田舎の駐在所に異動となった日岡秀一は、穏やかな毎日に虚しさを感じていた。そんななか、懇意のヤクザから建設会社の社長だと紹介された男が、敵対する組長を暗殺して指名手配中の国光寛郎だと確信する。彼の身柄を拘束すれば、刑事として現場に戻れるかもしれない。日岡が目論むなか、国光は自分が手配犯であることを認め「もう少し時間がほしい」と直訴した。男気あふれる国光と接するにつれて、日岡のなかに思いもよらない考えが浮かんでいく…。警察VSヤクザの意地と誇りを賭けた、狂熱の物語。日本推理作家協会賞『孤狼の血』シリーズ最新刊!

(引用|amazon)

前作のラストシーンでは日岡がベテラン刑事になっている様子が描かれていたが、この作品はそのラストから時間が巻き戻り、大上の死の直後に山奥の駐在所に飛ばされた日岡がマル暴に復帰するまでが描かれている

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典型的な田舎の駐在さんになった日岡が、敵対ヤクザの組長の殺害容疑で指名手配中の国光を発見するも、必ず日岡に逮捕されるから少しだけ待って欲しいと頼まれる。

逃走中の国光を逮捕したら刑事として現場復帰出来るかもしれないと目論むが、日岡はその言葉と国光という男を信じて待つことにする。

疑いつつも共に同じ時間を過ごす中で、国光という人間に信頼を寄せるようになる日岡だが、そんな中、ある大きな事件が発生する・・・。

 

といったストーリー。ある大きな事件については実際に読んでみて欲しい。

穏やかな展開から急激に緊迫感が生まれる展開は読みごたえがあり、警察組織とヤクザの世界の狭間にいる日岡の絶妙な立ち位置が痺れる作品になっている。

 

 

大上から国光へ

前作において、日岡を導く人物は大上だった。

存在感の大きい彼がいたために日岡はヤクザの世界に対するノウハウを学べ、裏の世界との繋がりを得て、その世界で生きていけるようになった。

いわば師匠でありパートナーのような存在と言える。

大上がいたから、田舎の駐在に飛ばされても牙を折らずに過ごしていることが出来たのだろう。

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対して今作『凶犬の眼』において、その師匠兼パートナーは国光寛郎というヤクザにあたる。

彼が日岡を導き圧倒的な存在感を発揮する、ある意味ではこの作品の顔と呼ぶべき存在だ。

前作と大きく違う感覚として、様々な規律を犯していたとしても大上は刑事だったのに対して、国光はヤクザだ。さらに人殺しもしている。

本来であれば関わるべき存在ではない。

 

そんな国光に対して、日岡は最終的に兄弟の杯を交わすほど信頼を寄せるようになる

しかも五分の兄弟

言ってしまえば双子のような存在だ。

この二人が兄弟の杯を交わすシーンは、状況も相まってかなりの衝撃だった。

 

冷静になると、「え ヤクザ以外でも杯システムってあんの?」と思わなくもないが、読んでいる時はまったくそんな印象を感じずに感動的に受け入れてしまった。

筋を通す国光の生き方に感銘を受けた警察官の日岡が、ヤクザである国光と兄弟の杯を交わす行為。

その行為はこの作品のテーマと言ってもいい考え方を明確に示している行為といえる。

 

そのテーマとは、 

”正義と仁義” 

のありかたではないだろうか。

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正義と仁義

この作品において「正義」という言葉の定義は社会のルールと言っていい。

法律がありその法律にのっとった行動をすることが正義であり、人を殺すという行為なんてもってのほかだ。


対して、「仁義」とは何か。

【仁義】をデジタル大辞泉で調べると、 

1 仁と義。儒教道徳の根本理念。

2 道徳上守るべき筋道。「仁義にもとる行為」「仁義を重んじる」

3 他人に対して欠かせない礼儀上の務め。義理。

4 《「辞宜(じんぎ)」からか》ばくち打ち・香具師(やし)などの仲間の道徳・おきて。また、その仲間内で行われる初対面のあいさつ。

引用:仁義(ジンギ)とは - コトバンク

と書いてある。

 

使われ始めた初期の頃はわからないが、少なくとも現在の意味合いで儒教の考え方は関係ないと思うので、作品の中の「仁義」とは2、3、4が合わさった行為となる。

つまり、(ヤクザの世界での)道徳・おきてといった守るべき筋道を、他人(ヤクザの世界での親兄弟)に対して欠かせない義理を果たす行為となるのだろう。

 

法律や社会のルールではなく、ヤクザの世界における義理を果たす行為を仁義と呼び守ること。

大上もそうだったが、国光も社会のルールから生まれる正義よりも己が信じる仁義を重んじて生きている。

本来であれば、人を殺すことなど絶対にあってはならないのだが、自らの仁義を1mmもぶれることなく貫き通す国光の姿は正直な話、格好良すぎると思う

悔しいけれど憧れてしまった。

そして、その生き方に日岡も多大な影響を受けているように思える

おそらくは、続編の3作目にその影響が描かれるのではないかと、ひそかに期待している。

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因果応報

とはいえ、殺人を犯したヤクザ物の国光が作中にて一番輝いているヒーローとして描かれていることには疑問がある。

それを解決するためのエピソードとして書かれたのかはわからないが、刑務所に入った後の国光は最終的に悲劇に襲われる。

エピローグで、旭川刑務所に入っていた国光に対して復讐を企てる人間がやってきて、真面目にお務めを果たしている国光を刺してしまう。

そして刺された国光のギラつく眼と共に物語は終わっていく。

まさに因果応報と言える。

 

どんな理由があったとしても親を殺されたヤクザにとって、その復讐とは仁義ということになるのかもしれない。

国光にとってもそうだし、国光を刺した相手方にしてみてもそうだ。

 

タイトルにある凶犬の眼とは国光の眼のこと

 

仁義を貫くということは、逆に相手から仁義を貫かれることについても覚悟が出来ていること。

その命に対する覚悟はまさに凶犬と呼ぶにふさわしく、その血走った眼と共に物語が終焉を迎えるのは鳥肌が立つ以外の感想が浮かばない。

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最後に

噂ではあるが、この作品は三部作らしい。

『孤浪の血』

『凶犬の眼』

とセットになる三作目がそのうち出るかもしれない。

 

読むたびにゾクゾクが止まらない男くさい小説の続編が果たしてどんな作品になるのか、今から楽しみで仕方ない。 

作品を読んだらまた感想を書いてみたいと思う。