北沢栄『小説・非正規 外されたはしご』感想文:勉強になる内容なのに小説という形態にしたのは明らかな選択ミスでは?

正社員と非正規労働者との間にどれだけの差があるかを僕は知らない。

生涯賃金の差や 保証の面でどれほどの待遇の差があるのかも知らない。

僕は知らないことだらけだ。そんな自分を情けなく思い、 少しでも勉強しようと思ってこの本を手に取ってみた。勘違いをしてほしくないのだが、僕は小説として面白いからこの作品の感想を書こうと思った訳ではない

今日の書評はあくまでも勉強の為、そして作者のジャーナリズム精神へのリスペクトを込めて書かせてもらおうと思う。

小説・非正規 外されたはしご

あらすじ

「格差社会の多面的な構造問題を小説の手法で見事にあぶり出した」
日本の「格差」研究の第一人者、京大名誉教授・橘木俊詔氏推薦!
「社会を変える力は、個人の気概に潜んでいるのだ。…社会への告発と、人間への温かいまなざしと愛に満ちた、渾身の書である。」
「山形新聞」読書面書評(2016年7月31日付)

弓田誠、34歳。
東大卒で、年収わずか220万円。
過激残業、パワハラ、雇い止め…。
ブラック企業がはびこる
現代ニッポンの格差と闘う青年の物語。

元共同通信記者の著者が事実に基づいて描く、貧困のリアル!
外食チェーン、自動車工場、特殊法人、学校、メガバンク…。いずれも恐ろしい非正規雇用の実態を、小説形式にて浮き彫りにする。
引用:amazon

小説仕立てでそれぞれ外食チェーン自動車工場、年金機構、学校、メガバンクの非正規雇用の実体が描かれる。非正規雇用とは何か、またその割合や人数の推移などが、主人公たちの経験談と共に書かれており、それぞれのメリット・デメリット(まぁほとんどデメリットなのだが)が痛々しく挙げられている。

特に外食チェーンと自動車工場の非正規の労働環境の劣悪さがかなりリアルに描かれているので、読んでいて気が滅入ってしまい、非正規社員をずっと続けていく人間の末路が悲惨なものに感じられる。

また、厚生労働省の非正規雇用に関する法令(ザル法)が変わった事で起こる問題なども取り扱われており単純に勉強になる本だった。

ただ、この作品に関してのamazonのレビューは十中八九、作者の知り合いが書いていると思われるので、あまり参考にするべきではないと僕は考えている、笑

感想

非正規雇用者の厳しい現実を小説という形態で表現をした意欲作。非正規雇用で経験した体験と、その経験財産を元に、会社を起こすまでが描かれるのだが・・・。

途中で主人公の生い立ちが明らかになったり、恋人との出会いや結婚に関するこだわりが書かれたり、ストーリーとは直接関係のない非正規雇用の教師の話がぶっこまれたりするので小説として非常に読みにくくなっている

また、非正規雇用者の年収であったり、人数の推移に関しての具体的な数字は、小説として描かれることで文字だけの表現になる。グラフなどの視覚的な情報がない状態で数字の羅列だけを読まされるのはかなりの苦痛だ

そもそも論

あまりそもそも論を言うつもりはないのだが、(まぁこれから言うのだが)そもそもこの作品が小説である必要性があるのかという点に最大の引っかかりを感じている。

作者が取材を重ね社会における非正規雇用の強い側面を文字に書き起こそうとする心意気は買いたいし、内容も非常にわかりやすく現状を伝えているのだが、それであればあくまでもノンフィクションのジャーナリズム本として 出版するべき内容だったのではないかと思う。

特に前半部分の外食チェーン・学校の非正規社員の実態に関しては、小説として捉えた時には何一つとして意味も面白味もないものだった。おそらく作者が取材をした結果をとにかくを内容に盛り込みたいという気持ちの表れだと思うが、その気持ちが強すぎて、小説としての内容がバラバラになっているように思えた。

感覚としては小説が3、ドキュメンタリーが7といった内容なので、どちらの印象も半端になっているように思える。もしこの内容で小説として作り上げるのであれば、最低でも小説とドキュメンタリーが5:5くらいのバランスで成り立っていないと意味がない気がしてしまった。

最後に

小説という形態については厳しめに書いてしまったが、この作品のポイントは「楽しむこと」ではない

あくまでも現代における非正規雇用の問題点と、非正規雇用者を社会としてどのように生かすべきなのかを学ぶこと」に重点をおいている作品になっている。

知識欲を満たす為の読書が最近減ってきているので、こういった本を読む時間も貴重なものだ。