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越谷オサム『陽だまりの彼女』感想文:男が読んでもニヤニヤして泣ける恋愛小説とはこういうこと

陽だまりの彼女 (新潮文庫)

恋愛小説とは主人公に感情移入して疑似的な恋愛体験を楽しむものだ。

 

その味わう疑似体験があまりにも魅力的だと、稀にこちらの世界に戻ってこれない紳士淑女もいるらしいが、それもこれも読んでいる作品の魅力もしくは魔力と呼べる力のせいかもしれない。

 

現実の世界に戻ってこれないレベルまで行ってしまうと困ってしまうが、物語に没頭してヘラヘラニヤニヤしていられる恋愛小説は、健全で魅力的な恋愛小説といえる。

 

つまり、今回の書評である越谷オサム『陽だまりの彼女』という作品は健全で魅力的な恋愛小説であるということだ。

 

この作品を読むとどんな感情になるのかを説明したいが、恥ずかしくてうまく言えない。おっさんが使うのは抵抗がある言葉。本当は絶対に使いたくない言葉。しかし、それでもこの言葉が一番しっくりくるので、本当に嫌々ながら使ってみるが、

 

この本を読むと、とてもキュンキュンする

 

そのキュンキュンを男性諸君に少しは味わってもらいたいので、今回はネタバレをしまくりながら紹介をしたい。

 

 

陽だまりの彼女 

あらすじ

幼馴染みと十年ぶりに再会した僕。かつて「学年有数のバカ」と呼ばれ冴えないイジメられっ子だった彼女は、モテ系の出来る女へと驚異の大変身を遂げていた。でも彼女、僕には計り知れない過去を抱えているようで──その秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる! 誰かを好きになる素敵な瞬間と、同じくらいの切なさも、すべてつまった完全無欠の恋愛小説。

(引用:amazon)

ザックリ簡潔に言えば素敵に変貌した幼馴染と再開して恋に落ちる話なのだが、そこに至るプロセスが面白い。


主人公の浩介の視点で展開していく話の中で、たまたま真緒と仕事の関連で出会うのだが、出会いから恋人になるまでがトントン拍子なので読んでいて気持ちいい。


しかし、後半になると真緒の秘密に関する描写が増えてくるので、そわそわして不安定な気持ちのまま読み進めていくことになるので、単なる恋愛小説ではないという部分も魅力的だ。

 

 

感想

僕は何故かこの小説をミステリー小説だと勘違いしていたので、いつどこでどんな逆転現象が起きるのかをビクビクしながら読んでいたが、途中でガチガチの恋愛小説であることに気が付き驚愕した。

 

というのも、作品の途中でヒロインである真緒の過去に関して何やらミステリアスな描写が頻繁に出てくる。そのミステリアス描写が実は結構えげつない内容ではないかと予想していた。


例えば、殺人入れ替わり過去の風俗やら詐欺行為などを想像していたのだが全然違った。そんな汚い話ではなくストレートに感情移入する素敵な話になっているので、おっさんなのに感動して涙ぐんでしまった。

 

【以下ネタバレ】

真緒は子供の頃、浩介が拾った猫の生まれ変わりな訳だが、全てを読み終えてから作品を振り返ると、真緒の行動や金魚のブライアンの行方、性格や題名に至るまで越谷オサムが巧みに散りばめた伏線が見事に回収されていることに気がつく。

 

皆の頭の中から真緒の記憶がなくなってから義父母と再会する場面も素晴らしい。今読み返したら普通に泣けて驚いた。義父母が新しい猫に真緒と名付けた事を知った場面なんて、感情移入していたからもう鼻水がでまくっていた笑。

 

 

真緒の魅力

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この作品の魅力=真緒の魅力と言える部分がある。

 

終盤までに如何に真緒が魅力的な女性なのかを表現することで、ラストの感情移入が変わってくるからだ。

 

①学生時代からのギャップ

学生の頃にバカにして嫌々守ってあげていたような女の子。その子が容姿も綺麗で、性格も明るくて気立てがよくて、さらに仕事もできて自分のことが大好きな女性として社会人の自分の前に現れた。その存在が真緒だ。


衝動的にキスをしてしまった幼き日の思い出から、素敵な大人の女性として登場するので、知ってると思っていた人の知らない素敵な側面を見ることは、これ以上ないギャップと言えるかもしれない。

 

②新婚のバカ夫婦

反対を押し切って結婚した二人の新婚生活はラブラブすぎて呆れるほどだ。お姫様抱っこで新居に入ったり、背中をこすりつけて甘えたりと読んでいて恥ずかしい。

 

しかし、浩介と真緒のような新婚生活を経験した人は、この作品に対する感情移入は強いかもしれない。名前を読んで答えてくれる人が肌のぬくもりを感じられる距離にいることは、それ自体が何にも代えがたい幸せであるという事を教えてくれている。

 

③ストーキング行為

真緒と主人公はたまたま再開したのではなく、真緒が必死に探して偶然を装って再会したのだ。幼馴染の女の子が自分と再開するために必死に勉強して、合コンでも自分を探して、インターネットも駆使して全力を尽くす。

 

10年以上の月日を自分にだけ費やしている女の子との再会。そして、その女の子が可愛くて素敵な子なのだ。現実的にはそんな女の子はいないだろうが、男が描きたくなるバカな妄想の最高峰といえるのではないだろうか?

 

ただ、この話は状況によってはめちゃくちゃ怖いストーキング行為でもある。「ただしイケメンに限る」ならぬ「ただし美女に限る」というやつかもしれない。

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ハッピーエンドと呼べるのか問題

amazonのあらすじでは“恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる!”なんて書かれているが、結局この作品をハッピーエンドとして捉えても良いのだろうか?

 

ガンガンネタバレをするが、いなくなった真緒は猫の姿で帰ってくる


もう二度と会えないと思っていた恋人や妻と再開できたのは喜ばしいことだが、誰も思い出を共有できない状態で生きていく辛さというものもある。さらに作中で結構お盛んだった夜の営みも、流石に動物プレイは難易度が高すぎるので行われることはないだろう。


「最悪な結末」ではないが「最高の結末」とも呼べない非常にグレーなエンディングだと僕は思っている。

 

 

映画化

ちなみにこの作品は映画化している。

www.hidamari-movie.com

キャストは嵐の松潤こと松本潤浩介役を。そして上野樹里真緒の役をやっている。マツジュンの役は誰がやってもいい気がするが、上野樹里の猫役はメチャクチャはまり役なのではないだろうか?実際にちょっと猫っぽさのある髪型やメイクにしていた気がする。ロケ地である江の島の風景にも合っていた。

 

また、この作品の映像化のメリットは音楽の部分にあるのではないだろうか?

 

作中に出てくる主題歌『The Beach Boys / ビーチボーイズ』『Wouldn't It Be Nice / 素敵じゃないか』の鼻歌。いなくなった真緒を思い出す重要な歌としても登場して、作品の重要な世界観を構築するカギとなる存在だ。

www.youtube.com

小説で想像上でイメージする歌も悪くないが、直接耳に届く歌声は感覚に訴えるので“音楽”が重要なファクターになっている。この作品は映像に起こした時に一層栄えるのではないかと思っていたので非常にうれしく思っていた。ちなみに「素敵じゃないか」の歌詞はストーリーをなぞっていて一層感情移入してしまう。

 

 

最後に

文字の羅列が美しいと感じる作家ではないが、越谷オサムの作品は読み手の感情を作品の中まで引っ張り込んでくれる。軽めの文章なのにシンプルな感情を深くまで運んでくれる珍しい作家だ。

 

この作品も「誰かを好きになる」というシンプルな感情を最大限に表現してあり、これからも読む人の心をキュンキュンさせていくことだろう。ほかの作品にも期待していきたい作家だ。

 

それにしてもキュンキュンという言葉を言うのは本当に恥ずかしい。

ギンギンなら一万回でも言えるというのに。