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池井戸潤『ロスジェネの逆襲』感想文:半沢直樹3-世代間意識に問いかける名言だらけの熱い問題提起!

ロスジェネの逆襲 (文春文庫)

2013年のTBSドラマ『半沢直樹』の原作小説シリーズの第三弾、池井戸潤作『ロスジェネの逆襲』。前二作に比べてタイトルセンスがいきなり向上したので驚きが隠せないが、作品自体はドラマのあと、つまり半沢直樹が出向が命じられたあとの話が描かれている。

 

最終回の視聴率が40%を超え社会現象にまでなった作品の原作なので、いずれこの作品もドラマ化されるのではないかと期待はしているものの、現状では未だ決定のニュースは聞かない。映像化されるのか、されないのか興味は尽きないが、原作の面白さは折り紙付きなので、今回はこの作品の書評、紹介を書かせてもらいたいと思う。ホント、爽快でおもしろいんだよなぁ~。

 

他の半沢直樹シリーズの感想 

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ロスジェネの逆襲 

あらすじ

子会社・東京セントラル証券に出向した半沢直樹に、IT企業買収の案件が転がり込んだ。巨額の収益が見込まれたが、親会社・東京中央銀行が卑劣な手段で横取り。社内での立場を失った半沢は、バブル世代に反発する若い部下・森山とともに「倍返し」を狙う。一発逆転はあるのか?大人気シリーズ第3弾!
引用:amazon

前作の『オレたち花のバブル組』で東京第一銀行から出向させられた半沢直樹が出向先の東京セントラル証券で新たな戦いを繰り広げる。出向の理由は前作を読んでみてください。

 

前作までは資金回収や経営再建を主軸にしていたが、今作では企業買収がテーマになっており、今までとは一味違った半沢直樹が楽しめる。が、前作よりも半沢本人がピンチに陥っている印象はやや薄くバブル世代から一転、就職氷河期を経験したロストジェネレーション世代がこれからの社会を担っていこうとする力強さを描いた作品になっている。

 

今までと大きく違う点は、この作品の敵は出向元である東京第一銀行であるという点だ。とりあえずヒモ付きの出向だった半沢だが、親会社に逆らう形になるので、立場を悪くしていくことになる。そんな圧力がかかる立場で、半沢がどのような行動に出るのかが、この作品の見所なのではないだろうか。

 

話の構成がしっかりしているのでフォックスとか電脳とかモデルがいるのではないかと勘繰ってしまうほどだ。何か元ネタがありそう…。

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全体の感想

ビジネスエンターテイメント作品なのでシンプルにとにかく楽しくスカッと出来るのが、この作品の一番の良さである事を改めて感じた。

 

今作では東京セントラル証券での企業買収計画を、半沢の親会社で出向元でもある東京第一銀行に事前相談もなく奪われてしまう事件から物語が始まる。つまり、今回の敵は元身内だという事実が複雑な展開を作り出している。そして親会社の裏切り行為に憤慨した半沢は、部下の森山と共に東京スパイラルの瀬名と共に買収に立ち向かうのだが、スタート段階ですでに四面楚歌。希望も薄い中での逆転劇はさすが池井戸潤の作品といった所。

 

敵は元身内

特に東京セントラル証券という子会社の立場で、明らかに強い親会社を相手に一歩も引かない半沢の姿勢は一介の社員に留まらず、もはやトップ経営者のノリになってきている。もう、半沢はこれだけ優秀なのであれば、独立すればいいのにね、笑。そして、またしても前作同様、取締役会に乗り込んでいく半沢直樹。もはや取締役会が大岡越前の裁きを下す奉行所のような場所になりつつある、笑


また、今作は明らかに前2作と違う点がある。それはタイトルに『バブル』『組』という漢字が入っていないことだ。主人公は半沢直樹だが、今までの作品はあくまでもバブル期入社のチームにフォーカスしていたが、この作品は半沢直樹とロストジェネレーションとの共闘になっている。

 

 

森山の世代間意識

この作品のもうひとりの主人公はロスジェネ世代の森山だ。

 

彼の存在がこの物語に作品の主題ともいえる世代間意識という一つの重要なテーマを与えており、半沢だけの活躍で終わらせない深みを生み出している。

 

はじめの段階での森山はバブル期に大量雇用されていた世代を見下して不貞腐れた態度で仕事をしていた。それが半沢直樹と共に仕事をすることで、彼の仕事に対する意識が変わっていく成長物語としても秀逸な出来になっているように思う。

 

半沢から森山への言葉

当初、バブル世代が幅を利かせている社会を疎ましく思い、常に自分たちロスジェネ世代が損な役回りをしていく現状に不満を持っている森山に対して半沢はこう言う。

「オレたちは新人類って呼ばれてた。そう呼んでたのは、たとえば団塊の世代といわれている連中でね。世代論でいえば、その団塊の世代がバブルを作って崩壊させた張本人かも知れない。
 ~中略~
バブル世代にとって、団塊の世代は、はっきりいって敵役でね。君たちがバブル世代を疎んじているように、オレたちは団塊の世代が鬱陶しくてたまらないわけだ。だけど、団塊世代の社員だからといって、全ての人間が信用できないかというと、そんなことはない。逆に就職氷河期の社員だからといって、全てが優秀かといえば、それも違う。結局、世代論なんてのは根拠がないってことさ。上が悪いからと腹を立てたところで、惨めになるのは自分だけだ。」

~作中より~ 

世代間意識の強い森山に対して、自分たちの世代にも同じような世代間意識が存在したと話す。また、そんな根拠もない意識に腹を立ててふてくされていても、身にならないから止めておけとやんわりと戒める。相手の身になって言ってあげている意見。こういう上司の意見なら聞けるなと、しみじみしてしまう。

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また、半沢が電脳雑技集団の粉飾を見破り、大逆転をして東京スパイラルを救ったのにも関わらず、三笠と伊佐山の策略でその電脳雑技集団へ出向させられるとの噂を聞いた森山が、そのあまりの理不尽に対して怒りを露わにする。

そんな森山に対しての半沢の言葉も良い。

「あと十年もすれば、お前たちは社会の真の担い手になる。そのとき、世の中の在り方に疑問を抱いてきたお前たちだからこそ、できる改革があると思う。そのときこそ、お前たちロスジェネ世代が、社会や組織に自分たちの真の存在意義を認めされるときだと思うね。オレたちバブル世代は既存の仕組みに乗っかる形で社会に出た。好景気だったが故に、世の中に対する疑問や不信感というものがまるでなかった。つまり、上の世代が作り上げた仕組みになんの抵抗も感じず、素直に取り込まれたわけだ。だがそれは間違っていた。そして間違っていたと気付いたときには、もうどうすることもできない状況に置かれ、追い詰められていた」

~中略~

「だが、お前たちは違う。お前たちには、社会に対する疑問や反感という、我々の世代にはないフィルターがあり根強い問題意識があるはずだ。世の中を変えていけるとすれば、お前たちの世代なんだよ。失われた十年に世の中に出た者だけが、あるいは、さらにその下の世代が、これからの十年で世の中を変える資格が得られるのかもしれない。ロスジェネの逆襲がこれからはじまるとオレは期待している。~以下略~」

~作中より~

自分の事は置いておいて、森山達ロストジェネレーションの世代こそこの社会を変えられると、そっと背中を押してあげる半沢。やばい、超格好いい。なんか島耕作にみえてきた、笑。

 

タイトルの意味

タイトルである『ロスジェネの逆襲』とは、一連の企業買収の森山と瀬名の事を示しているだけだと思っていたが、実はロスジェネ世代全体に対して未来への期待を込めた言葉でもあり、ダブルミーニングになっているようだ。素晴らしいタイトルですね。池井戸潤は、むしろこの言葉をエールとして伝えたいからこの作品を書いたのではないかと思えるほど、ロスジェネ世代へ向けた熱い応援のメッセージになっている。

 

普通にネタバレしてしまうが、逆襲という言葉の通り最終的にはあくどい連中を軒並み吹き飛ばして栄転という形で銀行に戻れるのだが、逆に上手くいきすぎな気もしてしまう、笑。まぁ爽快感が強いので、それはそれでいいんでしょうね。

 

 

最後に

シリーズの爽快感はどの作品も甲乙つけがたく、最終的に興奮と共に読み終えることが出来るものばかりだ。その中でもこの作品に関しては、半沢の栄転で物語が終わる点や、ロスジェネ世代の明るい未来を照らすような終わり方になっており、特に大団円感が強い作品になっていると思う。

 

そんな強い爽快感の中、中野渡頭取も活躍する半沢直樹シリーズの最後の作品『銀翼のイカロス』に進んでいくと思うと、恐ろしいような楽しみなような、複雑な感情をいだいてしまう。

 

この感情も読書の楽しみの一つなのでゆっくりと味わいながら『銀翼のイカロス』を読み進めていきたいと思う。