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近いから衝突する家族の温かさ『家族シアター』感想文 -辻村深月-

家族シアター

短編集はその短さゆえに、作品へ感情移入する絶対量が少なくなる。

 

長編作品の様に登場人物のバックボーンを重厚に描いて感情移入させたり、地道に努力を重ねることで最終的に成功を掴む描写でカタルシスを味わうことも少ない。

ところが今日紹介したい作品、辻村深月『家族シアター』という作品は、少ないセンテンスで効率的に登場人物たちの想いを伝えてくれる稀有な名作短編集となっている。

先日読んだ時も、全ての小編に対して感情移入してしまい毎回泣きそうになるという、短編集としてはとても珍しい体験をしてしまった。今回はそんな素敵な作品のネタバレ感想を書いてみたいと思う。

 

 

 

家族シアター 

 

あらすじ

お父さんも、お母さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、娘も、息子も、お姉ちゃんも、弟も、妹も、孫だって―。ぶつかり合うのは、近いから。ややこしくも愛おしい、すべての「わが家」の物語。家族の絆の大切さをテーマにした何気ない日常の短編集で、家族だからこそ起きるぶつかりあいや憎しみあいを経てその大切さや素晴らしさを教えてくれる。

 

一つ一つの物語には小さな救いと心温まる結末があって、読み終わった後に幸せな気持ちにさせてくれる素敵な小説だ。読む前はこれほど優しい気持ちになれるとは思っていなかったので、最後のページを閉じたときに、胸がいっぱいになるような幸せな感情に包まれてしまった。それでは個別の感想を書いてみたいと思う。

 

 

『妹という祝福』

好き度★★★★☆

姉・由紀枝の結婚式で妹・亜希への手紙から、中学校時代の思い出に思いを馳せる話。

 

友達からどう思われるかが気になる思春期の時代。真面目でダサい姉を反面教師にしてオシャレに走る感覚はとてもよくわかる。しかし、影で姉から守られていたことを知り、その姉を笑われた時にキッチリ反論する亜希の不器用なまっすぐさはとても姉に近い気がする。全く違うように見えて芯の部分では似たもの姉妹なのかもしれない。言葉には出さないがお互いの事を心の底では尊敬し、大切に想い合ういい関係が描かれている。ラストでタイトルの意味がわかるのもほっこりする。素敵な姉妹関係だよなぁ・・・。

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『サイリウム』

好き度★★☆☆☆

バンギャ(バンドのおっかけギャル)の姉・真矢子とアイドルオタクの弟・ナオの話。

サイリウムとはライブで観客が持ってる光る棒のこと。お互いの趣味をバカにしあう姉弟の距離感が絶妙でリアルなので姉を持つ僕としては複雑、笑。アイドルオタの弟を普段はバカにしている真矢子だが、芯の部分で誰かを応援することをわかっているので、弟の情熱の部分に理解を示していた様子が描かれる。でもその弟への理解を伝える表現すら素直じゃない感じが、良くも悪くも姉的で本当にリアルだ。

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『私のディアマンテ』

好き度★★★☆☆

優等生で受験生の娘・みのりと少しズレた意識の低い母親の話。

進学校に特待生で入学した娘とおっとりした元キャバクラ嬢の母親の価値観の違いからすれ違ってしまうが、みのりが一番悩んでいた”妊娠”という出来事には一番初めに気が付いて支えてあげる。作中では志の低いがっかりな母親だと周囲に思われているが、個人的には「制服がかわいいからマリアン女子大付属に行ってほしい」って言ってくれる親というのは嫌いじゃない。あまり期待過多で接してくる親よりも良いと思うし、なにより将来的に親子の関係性が一番よくなりそうな気がする。どっしり構えて娘の選択を応援できる親がどれだけいるんだろう。そう考えるとこれほど素晴らしい親はいないのかもしれない。

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『タイムカプセルの八年』

好き度★★★★★

教師に憧れる息子と、人間関係苦手気味の大学准教授の父親の話。

一番感情移入した作品。同時に一番好きな作品。息子の年代の父親が集まった「親父会」に嫌々参加していた変わり者の父親が、ろくでもない教師・比留間によって息子たちのタイムカプセルがないがしろにされていたことを知り、コッソリとタイムカプセルを探し出して埋めなおそうとする。あまり息子に興味がないように見えるが、その息子の夢を護りたいという父親の不器用な優しさに心が揺さぶられてしまった。僕は教師憧れから自分に酔ってしまう比留間みたいな教師が大嫌いだった。だから、比留間に文句を言いに行こうとする「親父会」の面々に対して、「よっしゃ!いったれや!!」と思っていたが、この主人公の父親はただ息子の夢が保たれればそれでいいという姿勢に毒っ気を抜かれてしまった。最終的に「親父会」にイソイソと出かけていく様子にほっこりニヤニヤできる素晴らしい小編だった。

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『1992年の秋空』

好き度★★★★☆

宇宙マニアのちょいズレ妹・うみかと、普通さがコンプレックスの姉・はるかの話。

小学生にして「宇宙が大好き」という自分を持っているうみかに対して、言葉に出来ないコンプレックスを抱えているはるか。大切に思っているけれど、同時に憎らしいっていうのはこういう感情から生まれるのだろうか。自分が練習に付き合わなかったからうみかが逆上がりで怪我をしてしまったと思い、さらに怪我の種類によっては宇宙飛行士の夢も断たれてしまうということで、自分を責めてしまうはるかだがうみかはあまりその辺のことを気にしてなかったりする。なんか天才タイプ、笑。うみかもはるかに対して羨ましがっている部分があって、それぞれのコンプレックスが、自分にない魅力をお互いに尊重し合える関係性に変わっていくような素敵な物語だった。

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『孫と誕生会』

好き度★★★★★

息子家族と一緒に暮らすことになった、おじいちゃんの話。

海外赴任でほとんど会ってなかった孫の実音とおじいちゃんの距離感がリアル。仲良くしたいけど、どんな風に接したらいいのかわからないという苦々しくも絶妙な距離感で描かれている。初めは口うるさいおじいちゃんの話だと思っていたが、終盤で実音がいるから小学校の竹とんぼ作りに手を貸したということや、実音がいないならわざわざよその子にそんなことしないということをシンプルに伝えてあげた場面は胸が震えた。実音は不器用で話しかけてきたりはしないが、ずっと自慢のおじいちゃんだと思っていたことがわかるシーンも感動。不謹慎だがおじいちゃんが亡くなった時に一番悲しむのは実音だろうと思った。

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『タマシイム・マシンの永遠』

好き度★★★★☆

藤子・F・不二雄を敬愛する若い夫婦が赤ちゃんを連れて帰省する話。

父が赤ちゃんを可愛がっている姿を見て、自分がどのように育てられてきたかを実感する素敵なストーリー。ショートショートと言ってもいいほど短い作品なのに、辻村深月の素晴らしい視点と、著者の好きなドラえもんの秘密道具を織り交ぜて、じんわりと胸の奥から暖かくなるような作品に仕上げているのは驚嘆の一言。この作品の様に、短くても視点から生まれる物語を描けることを才能と呼ぶのではないだろうか。

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まとめ

とびぬけて読後感が良い作品が続き、爽やかな結末を連続で読ませてもらったので、心がすっかり浄化されたような気持ちになれた。小編ごとに感動して、何度も何度も目頭が熱くなる。

 

ずっと一緒にいる家族だからこそ、衝突してぶつかることもあるけれど、

ずっと一緒にいる家族だからこそ、仲直りする時間もある。

 

近いから衝突したり無視したりと感情的になってしまうが、その近さからくるわずらわしさにこそ、温かさがあるのだろう。最近はその近さから感じるわずらわしさが希薄になっている時代とも言えるので、その希薄さを乗り越えてくる面倒くささを文章越しに味わえる作品は、”家族の面倒くささ”の疑似体験ができる昭和っぽい作品ともいえる。

 

また、家族同士の表面上の衝突は決定的な敵対ではなく、愛情の裏返しであることを教えてくれている作品でもあるので、出来るだけ早いタイミングでこの本を読むことは子供の成長にいいと思う。ぜひ、全国の小中学校図書館に置いてもらいたい名作短編集だ