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松岡圭祐『探偵の探偵』シリーズ全作品のネタバレ感想文:暴力に対して機転で対応する女性版ハードボイルド作品

2017年8月30日更新

探偵の探偵 (講談社文庫)

読みやすくて優しめな物語を書いている印象の松岡圭佑さんが、比較的ハードな作品を描いているシリーズがある。北川景子さん主演でドラマ化もされいている人気作になっている『探偵の探偵シリーズ』だ。

 

以前から気になっていたものの、なかなか手に取るに至らなかったこのシリーズだが、先日、全ての作品を読んでみたのでまとめてネタバレ感想を書いてみた。ざっくりと物語の重要なポイントを書いたりもしれいるのでまだ読んでない方はご注意を!

 

 

探偵の探偵シリーズ

全体のあらすじ

主人公の紗崎玲奈(ささき れな)は高校生の頃に、最愛の妹である紗崎咲良(ささき さくら)を悪質なストーカー岡尾芯也(おかお しんや)に無理心中により、失ってしまう。隠れていたはずの咲良の居場所は、岡尾がもぐりの探偵に依頼して突き止めたことがわかる。

 

その探偵を捕まえるべく玲奈は、須磨康臣(すま やすおみ)が経営する株式会社スマ・リサーチの探偵養成所『PIスクール』し、スマ・リサーチに入社し悪質な探偵を追う“対探偵課”の探偵になる。咲良の居場所を違法に突き止めた探偵【死神】を探しつつ、世間にはびこる悪質な探偵業を営む輩を潰していくハードボイルドストーリーだ。

 

主要な登場人物

紗崎玲奈(ささき れな)・・・作品の主人公。不幸製造機。無口でほぼ笑わないノーメイクの女性。妹・咲良が岡尾に殺害されてから、その原因を作ったもぐりの探偵を探すために、スマPIスクールを経てスマ・リサーチ社へ入社し“対探偵課”として勤務する。とにかくいつもボコボコにされて血だらけ、不幸まみれの主人公。

 

峰森琴葉(みねもり ことは)・・・作品の準主人公。対探偵課の新人。仲の良い姉がおり、その姉と離れて生活していた為に、ブレーキ代わりとして玲奈の後輩兼同居人になる。当初は特に何もできず、格闘能力もない普通の子。姉がクズ。

 

紗崎咲良(ささき さくら)・・・玲奈の妹。岡尾に犯され無理心中させられる。凄い良い子なのに可哀想で仕方ない。

 

須磨康臣(すま やすおみ)・・・株式会社スマ・リサーチの代表取締役、兼スマPIスクール社長。まったく優しくしていている訳ではないが、玲奈の父親代わりのような存在。探偵は自分を含めて皆悪徳と言い放ち、それでも信念を持って仕事をする白髪の紳士。

 

桐嶋颯太(きりしま そうた)・・・爽やかな先輩。出来る男。玲奈とその他の橋渡し役。須磨から全幅の信頼を置かれているナイスガイ。読み始めた時は、いい男過ぎてこういう奴こそ黒幕に違いないと疑いまくっていた

 

窪塚悠馬(くぼづか ゆうま)・・・熱血漢の警察。起きている事件に対する玲奈の立ち位置に感づいている数少ない一人。ネタバレするが途中で殉職する。とても残念。途中まで窪塚と玲奈がくっつくと思ってたのになぁ

 

竹内 勇樹(たけうち ゆうき)・・・ライバル探偵社・竹内調査事務所の社長。登場当時は悪徳探偵のドンみたいだったが、死神を退治したあとの抜け殻のような時期の玲奈を雇う。実は結構いいおっさん。

 

阿比留佳則(あびる よしのり)・・・阿比留綜合探偵社社長。テレビ等メディアの力を使って探偵のイメージ向上に努めつつ、裏ではカジノ法案成立後に国から指定される筆頭探偵社に選ばれる為に暗躍しているクソ野郎。

 

岡尾芯也(おかお しんや)・・・玲奈の妹・咲良と無理心中したストーカーの男。コイツさえいなければ…と思いつつも、コイツがいなければこの作品は存在しないというパラドックス。スゲー気持ち悪いクソ野郎。

 

淀野瑛斗(よどの えいと)・・・池袋を拠点にする半グレ集団「野放図」のリーダー的存在。コイツが登場した巻では色々な衝撃がありすぎて、あまりコイツの印象がないという存在感の薄いクソ野郎

 

織田彩音(おだ あやね)・・・性格の悪い琴葉の姉。なぜこのクズと琴葉は何年も仲良く生きてこれたのかが不思議な存在。玲奈に『カイジ』に出てくる利根川の焼き土下座に匹敵するような屈辱「はだか土下座」をさせたクズ女

 

澤柳菜々(さわやなぎ なな)・・・“死神”ことその正体は市村凛。ちなみに、窪塚悠馬はこの女を庇って命を落とすことになる。また、琴葉に姉の命と玲奈の命を天秤にかけさせてテンションをあげるクズ女。

 

姥妙悠児(うだばえ ゆうじ)・・・市村凛を探偵として育てた存在。クライマックスに向けて凄まじいまでの大物として探偵界に名を轟かせていたが、いざ登場してみたら、非道さでいったら市村凛の方が数段上だったので尻つぼみ感が半端なく、ペラペラしゃべるわ、逃げるわ、水に飛び込んで溺れるわで、期待外れ感満載の残念なクソ野郎

 

みどころは?

この作品のみどころの一つは『剥き出しの暴力』にあると思う。

 

暴力はハードボイルド物の宿命とも言えるが、それにしても主人公の玲奈がとにかくボコボコにされるのでツラい…。もちろんやられるだけではなく、やり返す事がほとんどなのだが、玲奈は女性主人公のヒーローものにありがちな無秩序に強さを発揮するわけではなく、青あざをつくり鼻血をながしながらの、薄氷を踏むような勝利が多い。女性版ハードボイルドを描こうとするとこういった内容になるのかもしれない。

 

また違った魅力として『探偵雑学』が発揮される場面が挙げられる。

 

特別に格闘能力が高いわけではない主人公が、意志の力と『探偵雑学』知識を武器に戦っていく展開は一緒にスリリングな気持ちになれる。この雑学を細かく披露する流れは鑑定士Qの世界に通ずるところがある。というか、鑑定士Qで集めた雑学で犯罪寄りのものを使わずにこちらで使ったようにも思える。再利用としては良いが、結構強引に使っている事も多いので、逆にそこでQシリーズを思い出して和むともいえる。

 

では、一作目から見ていこう。ガンガンネタバレするのでご注意を!

 

 

探偵の探偵 

あらすじ

調査会社スマ・リサーチが併設する探偵学校スマPIスクールに、笑わぬ美少女・紗崎玲奈が入校する。探偵のすべてを知りたい、しかし探偵にはなりたくない、という玲奈、なぜ彼女は探偵学校に入校したのか? スマ・リサーチの社長・須磨康臣は、彼女の驚くべき過去をつきとめる。須磨は玲奈の希望を鑑み「対探偵課」を設けた。紗崎玲奈はひとり、悪徳探偵を追う“対探偵課探偵”となった。出典:amazon

感想

2014年11月14日発行の第一作目。

 

今までの松岡圭佑の作品を読んでいる限りだとそこまでシリアスじゃないだろうと思い込んでいた分、想像を超える剥き出しの暴力描写に驚いてしまった。特に主人公の玲奈はことあるごとに殴られ蹴られ鼻血とアザだらけになっているので、顔をしかめながら読んでしまう。また、妹に重なる会社の後輩・琴葉が暴力にさらされている描写は正直見るに耐えない。

 

メインストーリーは阿比留綜合探偵社の阿比留が企む自作自演の事件で、警察に恩を売ることで、カジノ法案成立後に指定される筆頭探偵社に選ばれることを狙う。様々な事件を起こし、自らの力で解決に導いているように見せかけ、その為に邪魔になるであろう玲奈を消そうとする展開だ。ドラマを見ていたので阿比留がユースケ・サンタマリアでしか再生されなかったりもする。

 

 

探偵の探偵Ⅱ 

あらすじ

妹を殺したストーカーに不法に情報を与えた探偵はどこに潜むのか?「対探偵課探偵」紗崎玲奈は、レイプ犯の部屋に忍び込みその手がかりを見つける。妹の仇は絶対にとる、と誓う玲奈は、憎き探偵を「死神」と名付け、その影を追う。知力と情報力で争う現代の探偵を活写する革命的探偵小説、第2巻。出典:amazon

感想

2014年12月12日発行の第二作目。

 

前作からひと月経っていないという速筆に驚く。早すぎ、笑。前回傷つけられまくった琴葉がリハビリの末、復帰。退社して危険のない世界へ進むのかと思いきや、琴葉の姉・彩音夫妻が謝罪に来た玲奈を裸にして土下座させてレイプまがいの行動をとったため、反発して結局玲奈と共にいることになる。姉が思いのほかゲスで驚いた。どうでもいいが、玲奈が余裕たっぷりで登場するわりに、戦いに関しては五分五分なので「いや、スタンガンとかさ~色々もっと準備しとけよ~」とツッコんでしまう

 

メインストーリーはDV被害者の集団失踪事件の裏に隠された謎で、野放図という半グレ集団がDV加害者に暴力対象者を引き渡して大金を手に入れようとする計画を玲奈が追う。玲奈が野放図に捕まり裸にされて大ピンチになったり、大パニックのスピード感で中盤以降は凄まじい物語展開が続き、玲奈といい感じになっていた窪塚がまさかの殉職でとんでもなくショックを受けてしまった。展開的には矢月秀作の『もぐら』に似た乱戦に思えた。てか第二巻では玲奈がよく裸にひん剥かれていて、とても興奮する可哀想だった。

 

 

探偵の探偵Ⅲ 

あらすじ

悪徳探偵を「駆除」するためにまったく手段を選ばない玲奈は、警察から常時マークされることになる。玲奈は監視をかわしながら、自分と家族の人生を破壊した「死神」を追い続ける。ついに姿を現した死神の驚くべき正体とは。あまりに過酷な闘いに、はたして玲奈の心は持ちこたえられるのか?出典:amazon

感想

2015年3月13日発行の第三作目。

 

とにかく玲奈がメチャクチャ不幸で可哀そうな展開が続く今作。前回の集団DV被害者失踪事件の被害者・市村凛がスマ・リサーチ社に逃げ込んできて匿う事になるが、その市村凛こそが死神・澤柳菜々だったので、その正体はなかなかどうして衝撃的だった。また、伏線は張られていたものの、ラストで琴葉が玲奈の命よりもクズの姉の命を選択したことが、痛々し過ぎて読んでいて辛くなってしまった。琴葉の姉は本当にクズすぎて堪らないですね。厳密に言えばクズというより精神的に弱いだけなのかもしれないが。

 

妹が犯され殺されて、母は精神科、父は離婚して自分の人生もメチャメチャ、仕事ではボコボコにされて、心の拠りどころの琴葉には裏切られ、脅されて転職させられた玲奈。もう可哀想すぎて他の感情があまり入ってこない。逆に不幸すぎて面白くなってしまうくらい不憫。特に琴葉との別れの場面で竹内の車で去っていくシーンはもはや現代版のドナドナだった。最終巻に救いがあることを祈った。

 

 

探偵の探偵Ⅳ 

あらすじ

完全警護の東京拘置所で殺傷事件被告人の連続死亡事件が勃発。監視カメラが捉えた人物は、紗崎玲奈にとって唯一無二の存在だった。真実はどこで決着をみるのか。死神への復讐は果たしたものの、琴葉に裏切られ虚ろな日々を送っていた玲奈が覚醒する。「探偵の探偵」四部作、壮絶なフィナーレ。出典:amazon

感想

2015年7月15日発行の第四作目。

 

傷つきまくって玲奈が竹内調査事務所へ転職したあと、琴葉は罪悪感と正義感で無茶な違法捜査を覚えたがる。そんな中、東京拘置所内で犯罪者の連続死亡事件が勃発し、監視カメラに琴葉の姿が映し出され、そのまま琴葉は行方をくらませる。当然、警察は琴葉を犯人だと考えているが、玲奈は琴葉を見つけて無罪を晴らすことができるのか?また、真の黒幕である姥妙悠児を白昼のもとへ引きずり出すことができるのか?というのが最終巻の展開。ただ、前作のボスである市村凛の方が悪役感が強かったのでやや尻窄みな印象

 

時に裏切られ時に助けられつつ玲奈は姥妙にたどり着くが、今作はあまり暴力を振るわれていなかったので落ち着いて読めた。終盤、琴葉は拉致されていた訳でも殺されていた訳でもなく、むしろズタボロになりながらも姥妙悠児のアジトにたどり着いていた事が判明する。あの琴葉がそこまで出来たのは驚きだ。さらにボコボコにされながらデータ消去済のパソコンを玲奈に渡す琴葉には感動してしまった。最終的に玲奈と琴葉の関係も修復され、スマ・リサーチに復帰したようで、不幸を見に纏いまくっていた玲奈が最後に大団円と呼べる幸せを掴んで本当に良かった

 

 

 

探偵の鑑定 I 

あらすじ

美女目当てに大金が舞う秘密交際クラブで、超高級バッグのバーキンを囮にした連続詐欺事件が発生。対探偵課探偵・紗崎玲奈は、証拠品のバーキンを鑑定する万能鑑定士・凛田莉子の危機を救う。バーキン詐欺女の驚くべき正体とは?二大ヒロインが並外れた探偵力と鑑定眼を駆使して立ち向かう。出典:amazon

感想

2016年3月15発行。

 

『万能鑑定士Qシリーズ』の凜田莉子が登場し、二つの世界が重なる『探偵の探偵シリーズ』の最終巻のⅠ巻。探偵たちが凜田莉子って女は非合法の探偵に違いないから、チェックしとけよ!みたいな流れがあるので思わず笑ってしまった。Qシリーズはファンタジーだから何とも思ってなかったけど、確かに凜田莉子が解決した事件を第三者から見たら明らかに鑑定士の仕事じゃないよね。

 

今回は詐欺に使われたバーキンのバックを通じて玲奈と莉子が出会い仲を深めていく。人が死なない世界で人を信用する万能鑑定士の莉子のやり方を、人がバンバン死ぬ世界で不幸製造機のように生きる玲奈がサポートすることで事件の真相に近づいていくのだが、やはり玲奈が登場することで結構シリアスな展開になってしまった。ちなみに、前作で姥妙がザコだった理由もなんとなく触れていたので、世論を反映させたのかと思うと作者の努力を感じて労わりたくなる。

 

 

探偵の鑑定 II

あらすじ

暴力団・獅靭会の罠に玲奈たちが気づいた時はもう遅く、莉子は鑑定店から誘拐されていた。古巣の獅靭会に敢然と立ち向かう須磨。莉子も人の死なない世界から、玲奈と同じ正義も悪もない世界に引きずり込まれてしまうのか。『万能鑑定士Q』と『探偵の探偵』、松岡圭祐の二大シリーズ、ここに完結。書下ろし。出典:amazon

感想

2016年3月15発行。

 

『探偵の探偵シリーズ』の最終巻のⅡ巻、そしてシリーズの完結。後編はほとんど莉子が拉致られて、悪事の片棒を担がされているので読んでいて悲しい作品。読む前に事前に想像していたよりも莉子が辛い目に遭っていたことに驚いた。

 

玲奈のシリーズ完結のはずが、下巻はほぼ須磨が主人公なのではないかと思えるような展開だったので、なんかどういうテンションで読んだらいいのかわからなくなってしまったが、とにかくハードボイルド感が凄い。バンバン銃で撃ちまくるしアングラなこともしまくる。

 

最終的には、各シリーズの主人公である玲奈、莉子、絢奈、瑞希が集結するので、もはやアベンジャーズのような感覚で読んでしまったのだが、冷静に考えると『特等添乗員αの難事件シリーズ』の絢奈だけは全員の中でぶっちぎりで一人だけ幸せなので、並ばれてもちょっと戸惑ってしまうんだよね、笑。

 

ただ、一番衝撃的だったのは小笠原の変化と莉子との関係性かな。マジで予想外だった。『万能鑑定士Qシリーズ』の最終巻での逆転現象があるのだろうか?探偵の探偵の最終巻のはずが、読み終わってしばらくたった今、まったく玲奈の印象が残っていないことに驚いてしまう。そのあたりも流石、不幸な主人公NO1の座を譲らない×ササキレナだなと、綺麗に落としてくれたなという感じだ

 

 

まとめの感想

平凡な日常を生きていると時にその日常から抜け出したくなることがある。

 

しかし、実際にその日常から飛び出すことが出来る人は少数で、多くの人はその代替行為として、映画や小説を味わう事でその欲を満たすことになる。そんな時に人はバイオレンスな物語を味わいたくなるのかもしれない。

 

暴力的なものはあくまでも物語の中だから楽しめるのかもしれないが、お手軽に日常から抜け出せるこういった作品たちは、日々の生活に適度な刺激を与えてくれる香辛料のような存在なのかもしれない。