Forest Lover

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ブスな彼女が出来た大林くん

大林くん

「燃えたろ?」

 

中学生の頃、こんなセリフを吐きながら指をこちらに向け、キメ顔をしていた男がいた。彼の名前は大林くん。僕らの同級生で性格はいい奴だったのだが、芸術的なまでのナルシストでもあった。


僕らが中学生だった当時に流行っていたジャニーズカット、ジェルとスプレーでピッチリセンター分けに固めた髪型を上目遣いでよく触っていた。本当に暇さえあれば彼は髪を触っていた。30秒に1度は髪を触らないと家族が酷い目にあうぞと脅されているレベルで前髪をいじっていた。


彼は決して格好良い顔をしていなかったし、何だったら毎朝10回往復ビンタされてから登校してんじゃね?と疑うくらい真っ赤な顔をしていたのに、とんでもなく自分の容姿に自信を持っていた。彼は何故あんなに自らのフェイスへの自信に溢れていたのだろうか。顔だけでなく視力も極限までに悪かったのだろうか?

 

ちなみに大林くんの顔は「格好悪い男子」という感じではなく「ブスな女子」みたいな顔をしているブサイクな男子だった。罰当りなことを言ってしまうが、七福神にいそうな顔とでも言えばなんとなく想像がつくだろうか。

 

ありがたい顔をしたブス。ご利益のあるブス。それが大林くんだ。

 

 

燃えたろ?

ちなみに彼が本当に良く言っていた「燃えたろ?」という台詞は、昔流行ったアーケードゲームのキングオブファイターズの主人公の草薙京の言葉だ。

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「燃えたろ?」

 

 

 

ゲームのキャラクター同士が本気でぶつかり合い、主人公の草薙京が勝った時にのみ発せられる勝利のシグナルだ。それを何故か大林君は特に勝ってない時によく使っていた。 

 

 

 

部活が始まる前の準備体操で雑談をしている時に、

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 「燃えたろ?」

 

 

 

美術の時間にハン画が完成して見せ合ってる時に、

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「燃えたろ?」

 

 


挙げ句の果てに、大林くんが言ったギャグがスベったときに生まれた間を埋めるための、

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「燃えたろ?」

 

 

そんなドーピング的「燃えたろ?」まであった。確かにギャグは大炎上はしていたのだが、燃えているのは大林くんのはずだ。ハッキリ言ってこちらが燃えているかを確認している場合ではない。

 

 

そもそも

何故大林くんはコチラが燃えているかを知りたがっているのか、当時は不思議でならなかった。僕が燃えているかを確認している暇があったら、もっと恋に恋したり、河原で親友を殴ったりしながら青春を駆け抜けるべきなのではないだろうか

 

もちろん、今考えれば大林君は好きなゲームのキャラクターの真似をするという、中二病的可愛らしさを発揮しているだけなのだが、当時の僕は、彼が「燃えたろ?」と口にする度に「いや、燃えてねーし、そもそも今オマエ勝ってねーしとネクラに心でつっこんでいた。僕も大概イタイ男であることは間違いない

 

それでも彼は明るい良いやつだったから、友人関係は続いていき、僕らは高校生になった。

 

 

 

ブスな彼女が出来た大林くん

高校生になった僕は大林くんとは別の高校に通うことになり、それぞれの道を歩みつつもたまに会って遊ぶような関係が続いていた。そんな中、別の友人から大林くんに関するある重大な噂を聞いたのだ。

 

 

どうやら大林くんに、

ブスな彼女が出来たらしいのだ。

 


当時の僕は童貞に毛が生えたような存在、もとい、毛は生えているが童貞だった為、大林くんに彼女が出来たことはとんでもなくセンセーショナルな出来事だった。


しかも、その彼女はそれはもう大変なブスらしく、歯並びはガタガタで肌も汚く爆発寸前の爆弾岩みたいな顔をしているらしい。

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そんなブスな彼女が出来た大林くんに対して僕はこう思っていた。

 

彼女が出来ればブスでもいいのか!悪魔に魂を売りやがって!!」と。


魅惑の童貞野郎だった僕は偏見にまみれた意見を嫉妬まみれで叫んでいた。今考えると当時の僕はそれはもう痛々しくて嫌になる。

 

しかし、いくらチェリーな僕だって少し時間が経てば冷静になっていく。いい奴だった大林くんに折角彼女が出来たのに、それを祝福もせずにいるのは友人として情けないと気が付いて、大林くんからしっかり話を聞いて祝福することにしたのだ。ただし、祝福はしたいものの状況を難しくしているのは彼女がブスだという事だ。

 

 

ブスを祝福する

勘違いをして欲しくないのは、別に大林君の彼女がブスだから祝福できないと言っている訳ではない。問題は祝福された時に大林くんが彼女がブスであるという引け目を感じてしまうかもしれないという点だ。

 

僕だって人間の価値が容姿だけじゃない事くらいはわかっている。ブスだっていいじゃないかと心から思う。実際に大林くんの彼女の写真を見せてもらったけど、そりゃまぁ確かにこの子はそのアレだなぁ・・・とは思ったものの、いったいそれがなんだと言うのだ。

 

きっとその子には顔以外に素敵な魅力がたくさんあるのだ。肌はガサガサでも心は白魚のように透き通っているのだ。肌はガサガサでも。そんな彼女の素敵な所を聞かないで、ただ容姿だけで決めつけるなんて人間としてあまりにも情けないじゃないか。そんな風に思った僕らは、大林くんを祝福するために他の友人たちと作戦を練ることにした。

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大林くんの為に

大林くんが集まる前に、仲間内でどんな風に聞けば彼が胸を張って彼女を紹介してくれるのかを考えてみた。そして長時間にわたる討論の結果、大林くんが僕らに話しやすい環境を作るべきだという結論に至った。

 

つまり、素敵な彼女が出来たということを、初めに僕らが認めてあげればいいのだ。

 

そこで僕は、大林くんから彼女の話を聞くときに、先制攻撃としてこんなことをいう事にした。

 

カワイイ彼女が出来たらしいね?

 

これでどうだろうか。もちろん社交辞令120%の大嘘、虚偽、フェイク、詐欺行為なのだが、少なくとも悪い気はしないはずだ。そして、リラックスして彼女の話が出来るのではないだろうか。

 

そうすれば、きっと彼はこう答えるだろう。

 

「いやぁ、可愛いっていうか、本当にやさしい子なんだよ

 

そりゃそうだろう。あの顔で優しくなかったら付き合う訳がないと思うかもしれないが、そんな事はどうでもいいことだ。彼が幸せそうに話してくれることの方がよっぽど重要だ。


いや、もしくはこう答えるかもしれない。

 

「いや、全然可愛くないよ。でも凄く大人で落ち着いた子なんだよ

 

ああ、ブスだから内面の成長が早かったのかなと少し悲しい気持ちになるけれど、でもそれはとても素敵なことに違いない。


もちろん、他にも彼女のいいところがあるだろうから、僕らはどんな展開でも彼を祝福できるように完璧にシミュレートしてから夜の公園で集合して大林くんを待ち構えた。

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夜の公園

暗い公園の中にポツリポツリと街灯の明かりが灯る。その一つの街灯に照らされたベンチの一つに大林くんが到着して僕らは腰を下ろした。それぞれの近況などを話し合い、バカな話をしているとあっという間に時間が過ぎていく。

 

そんな中で自然と大林くんの彼女の話が出てくればよかったのだが、なかなか大林くんは彼女の話をしてこない。仕方がないから、まずは僕から切り出すことにした。

 

 

そういえばさ大林くん、彼女が出来たらしいね

 

 

男同士は直球だ。ストレートに相手に聞くことで開ける道がある。その証拠に大林くんは嬉しそうに答えた。

 

 

おいおい、何で知っているんだよぉ~へへ

 

 

何が「ヘヘ」だよと思いつつも、結構上機嫌な大林くんを見て安堵する僕。じゃあいよいよ大林くんに安心してもらおう。

 

 

「噂で聞いたよ。なんか、彼女、カワイイらしいね?

 

 

大林くん、おめでとう。そんな気持ちを込めつつ彼を迎え入れる。

 

 

いや、カワイイっていうか・・・

 

 

若干言いにくそうにする大林くん。

 

いいんだよ、彼女はブスかもしれないけど違った素敵な部分を僕たちにぶつけておくれ!と心の両腕を広げて思う。さぁ、大林くん。ドンとこい!!と身構えていると大林くんはこう言ってきたのだ。

 

いや、カワイイっていうか、美人?

 

 

!?

 

 

なん・・・だと?

 

聞き間違いかと思い大林君の顔を二度見したが、薄明かりの中でドヤ顔をするご利益のあるブスがそこにいるだけだ。なんてこった。僕らはとんだバカ野郎だった。

 

そうなのだ。僕らは大きな勘違いをしていたのだ。

 

僕らから見たらブスだった大林くんのブスな彼女は、大林くんにとってはブスではなかったのだ。ジーザス。

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『いいね』

「いや、カワイイっていうか、美人?」

 

そんな謙虚さを美徳とする日本人とは思えない返答がきてフリーズする僕ら。心底驚くと人間は動けなくなるということも、この時初めて知った。


そのままドヤ顔をして彼女の容姿の自慢を話し続ける大林くんを見て、頭の中では「OK、一旦止めようか」と敏腕音楽プロデューサー風に話を止めたがっていたが、現実は止まらない。大林くんも止まらない。

 

僕らはシミュレーションしていたルートがスタートから潰されてしまい、なにも言葉が出てこず、<ブスな彼女実は美人説>をまくし立てる大林くんの話を黙って聞き続けた。そして、ひとしきり話を聞き終わった後、僕は身体から絞り出すように、

 

そいつは・・・いいね

 

とポツリ呟いた。

 

別に何もよくない。何一つとしていいことなどないのだが、「いいね」と言うしかない。ただの音としての「いいね」。Facebookで使われている「いいね」と同じだ。別に何とも思っていないけど、一応押した「いいね」。


心からの祝福もできず、そんな空っぽの「いいね」しか贈ることが出来なかった僕は今考えると本当に情けない。もちろん、力強く肩を叩いて気持ちよく「オイ、良かったな!大林くん!」と言ってあげればよかったが、僕らはエネルギーを使い果たしていたのだ。正直、大林くんの力強さに押されて負けていたのだ

 

 

人生の勝ち組

あの日あの場所で「カワイイって言うか、美人」と言い切った大林くんは明らかに人生の勝者だった。人間の容姿なんていうくだらない価値観に振り回されていた僕らを、一喝するように圧倒的な勝利をおさめた大林くん。今考えると本当に男らしい行為だと思う。

 

だからこそ、その勝利の瞬間であるカワイイって言うか・・・美人」と言い放ったあとに燃えたろ?」と言ってきてくれたら、それこそが一番正しい「燃えたろ?」のタイミングだったのになと、今になって思い出す。

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「カワイイって言うか、美人・・・燃えたろ?」

 


そしてもう一つ思う。

ブス専はいつの時代も人生の勝者なのかもしれない、と