小説ってどう楽しむんだっけ?『グローバライズ』性と暴力がぶっ飛びすぎてて置いてけぼり…-木下古栗

  • 2022年4月5日

「なんじゃいこりゃあ!!!」

と大きな声を上げて本をバタリと閉じてしまいそうになるブッ飛んだ短編小説集がある。それは木下古栗きのした ふるくり)『グローバライズ』という作品。※表紙のデザインが象徴的なので『GLOBARISE』と英語表記かと思いきやカタカナ表記です

以前、アメトークの読書芸人にて光浦靖子さんがオススメしてたので比較的知名度がある作品ではないかと思うが、実際に読んでみると…よくぞまぁこんなブッ飛んだ作品をおすすめしたものだと、光浦さんに対して苦笑いしてしまった

今までにないぶっ飛び方をしている作品なので、普通の小説に飽きてしまった方におすすめしたいと思う。という訳でこの作品のネタバレ感想をどうぞ。

グローバライズ

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あらすじ

・・・といっても短編集なのでamazonからの引用は本当に最小限しかない。

生まれてくる時代を敢えて間違えた、すべての人たちへ。プロの書き手も熱狂する、孤高の作家、初の短篇集!

これだけ。いたってシンプルなこんな一文だけ。

だが、こんなシンプルな一文でしか表せないような、複雑な物語がこの本の中に広がっている。この本はとにかくぶっ飛びすぎてて読者の置いてけぼり感が凄い

例えば、キャリアウーマンのバックから首が切断された死体の写真が出てきて、これから警察やら事件に巻き込まれるのかと思いきや、それを見た女の子は首の切断に興味を覚えてネットで調べるだけで物語が終わったり。

例えば、男のバックパッカーをヒッチハイクのついでに自宅へ招待するというハートウォーミングな話が、急にそのバックパッカーをボコボコに殴り、乳首を噛みちぎって去っていき物語が急に終わる

いやいや、すげーなこの展開力!この話の展開で何故そういった結論に至るのか?

そんな疑問ばかりが湧いてくるし、

真面目に作品の世界を頭に構築していると急に世界が終わってしまうような

回収されない伏線だけ読まされているような。

それでいてほんの数%だけその気持ちがわかるような。

独特の読書感覚を味わうことになる。

独特で不思議で、本を読みなれた人間でも驚愕するような展開と、超絶的にトンガっているメッセージがガンガン脳にぶつかってくる感じがずっと続くので、インパクトは折り紙付きだと思う。

不条理かつエログロ

想像通りに進まないこの作品は、途中から読者の想像の外側に話が急旋回する。その外側にあるのは、不条理であり、エロスであり、予想を超えるグロテスクでもある。

急にマシンガンを乱射されて殺されてしまったり乳首を噛みちぎられたりする一方で、朝食から優雅にウ〇コを食べてたり剥き出しの性描写が続いたりと急旋回した外側の世界では乱気流が発生したような落ち着かない結末が待っている。

個人的にはエログロ系の話は嫌いではないのだが、そこに不条理さが加わるだけで、これほどまで納得いかない感覚だけが残るのは新しい発見と言ってもいいかもしれない。

だから、この作品は読む人をかなり選ぶ作品だ。とんがりまくってる作品だ。

好みがわかれる理由は二つ。

一つはエロスと下品の中間を攻めている作品なので、人によってはそこに嫌悪感を抱くかもしれない点。もう一つは、これは実際僕もそうだったのだが、中盤以降の内容が攻撃的過ぎて置いてけぼりを食らったような感覚を味わうこと。その置いてけぼりな状態だと、文字の羅列がきつすぎて読んでいくのが辛くなってしまうのだ。

特徴がある作品は癖が強く、その分読み手を選ぶということが、これほど腑に落ちる作品も珍しいだろう。

とはいえ、個人的にはエロスとグロさの具合はベストバランスだった。また、シリアスな出来事の裏にナンセンスな時間が別に流れている様子は作風として面白味を感じるので、木下さんのしっかりとしたストーリー物を読んでみたいと思わせてくれるので、やはり作品自体は面白いのだと思う。

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ジェローム

この『グローバライズ』のアイドルというか、多くの人が気になる存在としてジェロームというフランス人が登場する。

作品としては、そのまま『フランス人』という作品と、名前は伏せるがもう一つ別の作品に登場するのだが、両方の作品でジェロームは颯爽と登場し、作品の主役の座を奪っていく。一部抜粋してみよう。『フランス人』の中から。

日本でストレスを抱えながらアクセク働いている日本人の斎藤が、トイレの中でオチンチヌの皮がチャックに挟まってしまい、そのまま尿まみれ、石鹸まみれになりながら必死にチャックから皮を取ろうと四苦八苦する様子が描かれる。過度のストレスの中、意を決してファスナーを引っ張り下げたその瞬間・・・

場面はフランスに飛び、急にジェロームという男が登場する

同時にジェロームは射精した。

あっと吐息を漏らしてひくひく腰を震わせると、相手を抱きとめていた手を離して、温かで湿潤な女性器から粘液の意図をたらりと引きながら、べっとりと濡れた白色のペニスを引き抜いた。(本文より)

「あれ?いきなりジェロームが出てきたぞ?誰だ?しかも〇ックスしてる?」

と読者は混乱する。そして結構、ダイレクトな性描写が描かれている。どうやらジェロームは誰かと性交を終えたばかりのようだ。

ただ、ここまでだとアクセク働く日本人と優雅な時を過ごすフランス人の対比という皮肉として成立する話なのだが、この直後にこんな描写がある。

メエェと短い鳴き声を上げて、雌羊の一匹が傍らで歩き出した。

その後ろ足の間から、ぼたぼたと白く泡立った液が滴り落ちた。(本文より)

おいおい、ジェローム。

お前、〇ックスの相手って雌羊かい!!

と、ツッコまざる終えない状況が起こる。恐るべしジェローム・・・。羊と身体を重ねるジェロームに驚愕を覚えるが、実はさらにこの後、もう一段階の驚きがある。

やがて青灰の眼を大きく見ひらき、のっそりと上体を起こすと、そのまま柔軟に頭を股間に屈め、ほどほどに勃起したままのペニスの、混じり合った体液のこびりつく亀頭に威勢よくしゃぶりついた。(本文より)

おいおい、ジェローム。

お前、セルフでも舐めるんかい!!

そんな風に上級者の性の世界を見せつけられることになる。一応言っておくが、ファスナーに皮が挟まった斎藤のその後は特に記載はない。これほど読者を突き放してくるトンガった小説は今まで読んだことがないかもしれない。

ちなみに、もう一つジェロームが登場する作品があるが、それは読んで確かめてもらいたい。きっとアナタは、「またお前か!ジェローム!!」とツッコんでしまうだろう、笑。

最後に

こんな風にしたら読者は喜んでくれるかな?

こんな展開にしたら読者が付いてきてくれるかな?

そんな弱気な姿勢ではなく、これが俺の書きたい小説だ!読みたければついてこい!!それ以外は知らん!!と突き放してくる木下古栗の姿勢は、実は結構好きだったりする。

ちなみに作者の木下古栗さんは1981年生まれとのことで、僕らと同級生とのこと。ああたったそれだけのことで、とてつもなく親近感を覚えてしまった。新しい作品がでたら追いかけていきたい作家がまた一人増えた。

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