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本屋大賞『かがみの孤城』ネタバレなし感想文!名作だから書評じゃなくておすすめポイントを書こうと思う|辻村深月

かがみの孤城

辻村深月『かがみの孤城』を読んだ。

 

多くの辻村作品を読んできたが、この作品はその集大成とも呼ばれており本屋大賞を受賞するのも納得の傑作といえる。本当に素晴らしい作品だった。

正直、素晴らしい作品すぎて書評・レビューなんて書ける気がしないので、まだ読んでいない人に少しでも楽しんで読んでもらうべく、評価というより僕が楽しめたおすすめのポイントを書いてみたいと思う。

もちろん、読み終えた人に共感を感じてもらえるようにもしたいので、ネタバレは最小限にして書いてみたいと思う。

 

 

かがみの孤城 

あらすじ

あなたを、助けたい。学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。(引用:amazon)

中学生の不登校問題とファンタジーを融合して描かれた辻村深月の新しいジャンルの傑作小説。

登場人物は、光り輝く鏡をくぐり抜けた先にある孤城に集められた7人の中学生。

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主人公のこころ

ポニーテールの活発女子のアキ

落ち着いた雰囲気のフウカ

ゲーム好きのマサムネ

少しイタイ食いしん坊のウレシノ

独特の落ち着いた雰囲気のスバル

色黒イケメンのリオン

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彼らは、なぜ自分たちが選ばれたのか、どうしてこの孤城に集められたのかも知らないまま、約一年後にあたる3月30日までに孤城からカギを見つけ出せばどんな願い事も叶えることが出来るという情報だけが与えられる。

似た境遇の彼らは家と学校以外のコミュニティーである”かがみの孤城”の中に自分たちの居場所を見つけて信頼しあっていく。

孤城の謎に迫りつつ生まれる信頼関係の描写が絶妙で、リアルさとエンターテイメントのバランスも美しいと思う。

ファンタジーの世界を冒険するような話ではなく、現実世界の不安を共有できる友人たちがたまたまファンタジーの世界にいる感じなので、ファンタジー世界の冒険が物語の主題でないところも面白さを感じる。

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ちなみに、作品タイトルを『鏡の孤城』という漢字の表記ではなく、『かがみの孤城』とひらがなで表記しているのも中学生が集まっている柔らかい雰囲気を絶妙に表現しているように思える。

kindleなどの電子書籍で読むのも悪くないのだが、単行本の表紙の絵のイラストも雰囲気があるので個人的にはぜひ紙ベースで読んでもらいたいと思っている。

かがみの孤城

 

生まれる信頼関係

僕がこの作品で一番おすすめしたい点は、登場するキャラクターたちの間でゆっくりと確実に育まれていく

”信頼関係”

の部分だ。

 

小学校から中学校に進むタイミングで恋愛至上主義の嫌なクラスメイト・真田さんから理不尽な嫌がらせを受け、学校に行くことが怖くなってしまった主人公のこころ。

不登校になったこころはかがみの中のお城で同世代の少年少女たちと出会うが、対人関係の恐怖からなかなか仲良くなれずにいる。

また、出会った少年少女たちもお互いに心に壁を作り、相手への踏み出す一歩の距離を縮められない展開が続く。

こころに対して自己投影もするが年齢的には親の目線でも読めてしまうので、仲間に対して本当に傷口に触れるかのように恐る恐る距離を詰めていき、何か月もの時間をかけてようやく築かれる”信頼関係”を見つめるのは感慨深いものがある

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信頼からの成長

また、カギを見つけることで叶う願い事についても、初めは自分に嫌な思いをさせた真田さんを自分の人生から取り除くことを考えていたこころだったが、仲間との信頼関係が生まれてからは自らのその考えを否定している。

自分と真田さんへの負の感情で埋め尽くされていたこころの内面が大切な仲間への感情で溢れていく様子は読んでいて胸がいっぱいになってしまう

 

臆病で優しいからこそ、ゆっくりと時間をかけて育まれる”信頼関係”を読むだけでもこの作品を読む価値があると思う。

心細い独りから徐々に繋がっていく人間関係に泣きたくなってしまうはずだ。

 

 

第三のコミュニティー

僕は学校と家が生活のほとんどを占めている学生が、

「第三のコミュニティーを手に入れること」

の大切さが、この作品の裏のメッセージのように感じている。

 

第三のコミュニティー。

第三の場所。

好きなこと。

逃げ道。

どんな言い方でもいいのだが、学校しかコミュニティーを持たない多くの子供からするとそのうち一つを失うと自分の居場所がひとつだけになってしまう

そうすると、自分の居場所が急に不安定になりメンタルが臆病になってしまうのだろう。

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一般的には、その第三のコミュニティーは塾だったり、習い事のような場所になるのだが、それをファンタジーというジャンルで表現している点が、この作品の面白いところだ。

もちろんファンタジーなのに、話の中心には極めてシビアな”現実”があるので、作品の緊張感はずっと保たれている。

 

 

らしさも感じる

この作品からは気持ちがいいくらい辻村深月作品の良い香りが漂っている。

元々、ファンタジー的な要素とシリアスを融合することに長けている作家だと思っていたが、今作もその長所が全力で生きている。

 

また、内臓をグッと掴まれるような絶妙な悪意を描くことも辻村作品の特徴だ。

この作品で言えば、言葉で表現しずらいクラスメイトの悪意の恐怖。

単純にいじめとは言い切れない粘着質な対人関係は、辻村作品の悪意だなぁと、自覚させられるものだった。

 

さらに後半のたたみかけるような伏線回収も見事で、爽快感というよりも心にじんわりと染みてくるような伏線の回収は、辻村作品の真骨頂のようで読んでいて非常に心地よいものがある。

素晴らしい作品を読めて本当に良かった。またすぐに読み返してしまいそうだ。

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似ている作品

ティーンエイジャーが急に非日常の世界に集まって人間関係が動いていくストーリーの作品を思い浮かべると、同じく辻村深月のデビュー作にして第31回メフィスト賞受賞作である『冷たい校舎の時は止まる』を思い出してしまう。 

この作品は時間の止まった夜の校舎に閉じ込められた学生たちが、自殺したクラスメイトの名前を探し出していく物語で、印象としてはこの作品の方が暗くて読書中のよどみを感じる作品になっている。

別人だと思われていた人間が同一の存在だったりする構想も少し近いものを感じる。

 

また、作者は違えど現実と融合した子供が主人公のファンタジー作品という意味合いで、宮部みゆき『ブレイブストーリー』にも近い印象を受けた。 

小学五年生のワタルが両親の離婚や、母親と共に無理心中させられるといった辛い現実を変えるために「幻界(ヴィジョン)」へ行き、仲間と共に冒険をするファンタジー作品だ。

辛い現実の息苦しさから解放されるようなファンタジーの爽快さが特徴的だが、最終的には自分自身と向き合うワタルの成長がみられる様子は胸を打たれる。

どちらも是非読んでもらいたい名作だ。

 

 

最後に

オオカミさまのヴィジュアルや孤城の雰囲気などの描写を読むと映画化やアニメ化にも向いている作品だとは思うが、限られた時間内でどれだけ登場人物たちの心情を表現することはかなりの挑戦であるのは間違いない。

個人的には、舞台化はいいけれど実写化などは避けてもらいたいという謎の感情を僕は持っている。

ともあれ素晴らしい内容なのは間違いない作品なので、メディアミックスには気を使ってもらいたいところだ。

 

また、作中には名言もあり泣けるシーンも多く結末も爽やかで心に残るエピローグは何度も読み返したくなるので、中学生、高校生の読書感想文にも非常に向いている作品なのではないかと思う。対象年齢はきっと広い。

 

いつになったら文庫化されるかはわからないが、宮部みゆき『ソロモンの偽証』のように、文庫のラストに彼らの将来の邂逅が描かれた特別編なんかが載っていたりしたら、そちらも買ってしまうに違いない。

おそらく2年は先だろうが、期待しつつその時を静かに待ちたいと思う。