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トミーの思い出 ~夢を追いかける君に気付いてほしいこと~【後編】

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 真夏の夜の夢

 

久しぶりに集まった仲間たちと、時間を忘れて語らいながら夜の散歩。潮の香りと月の光が柔らかく包み込むお台場の海。綺麗過ぎてそこだけ時間がゆったりと流れているみたいだった。振り向くと見える人工的な街灯の光も、久々の再会を明るく照らしてくれるスポットライト。


だけど今は目立たずに仲間内だけで話したいと、僕等はスポットライトの当らないところまで歩いていき、静かな時間の中で、海を眺めつつそっと砂浜に腰を下ろしたのだ。

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そして、夜の静寂がそうさせたのか、僕は目の前で座り込むトミーのことを本気で考えた

 

父親の都合で失踪していた数ヶ月間、つらい事もたくさんあっただろう。見た目は太ったままだけど、ショックで食事を食べれてないかもしれない。前よりも少し寂しげな背中になったトミーのことを僕はすごい心配していた。


「つらい」って何かを失ったり、傷つけられることだと思う


その経験で人は成長していくのかもしれないけど、「つらさ」にくらべて「成長」は自覚できるまでには時間がかかる。さらにその「つらさ」が急であればあるほど多大な喪失感として襲ってくる。


今までの生活や普通に進学していく事で叶う夢、そういった失った物ばかりを気にしてしまう。そう思ってしまうのは、しかたない事かもしれないけれど、僕は彼に夢を諦めて欲しくなかった


電車が好きだった彼は、もしかしたら車掌さんになりたかったのかもしれない。電車でGO!とか気持ち悪いくらい上手かった。ホント、気持ち悪かった


それが今はどうだろう。順風満帆に人生を謳歌していたしていたはずが、親の会社の経営事情により一筋縄では行かない人生になってしまった。人によっては人生に絶望し「どうせ夢なんて…」などと自暴自棄になってもおかしくないし、仮にそうなってしまっても誰が彼を責められるだろうか。


今の僕達に出来る事はただひとつ。彼のそばにいて、彼がまた夢を追いかけ始めたらそれを心から応援してやる事なのかもしれない。頑張れ。頑張れ。と背中を押してあげる事なのかもしれない。

 

浜辺に腰を下ろしていたトミーが、そのままの姿勢で落ちていた石を拾うとちゃぽんと海に投げ入れた。そしてゆっくりと一言だけ呟いた。


「俺…実は夢があるんだ。」


その言葉を聞き僕は目頭が熱くなるのを感じた。 

 

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トミーの夢

 夢を追いかける…それは素晴らしい事だ。その夢が叶うか叶わないかなんてのは二の次で、信じて努力している姿は美しい。

何より一番大変だったはずのトミーから「夢がある」という言葉を聞けたのが嬉しかった

最高だよ、トミー。お前格好いいよ!!


なんだよトミー、らしくねぇな。けど、そういうのって…なんかいいよな。」


軽い憎まれ口をたたきながらも、トミーの言葉が嬉しかった僕。横を見れば他の仲間も心なしか微笑んでいるようだ。きっと僕と同じ気持ちなんだろうな。

…こいつ等…まったくイイ奴らだぜ。


そんな僕らの気持ちを知ってか知らずか、なんだか照れくさそうな顔をしているトミー。でもどこか自信を覗わせるようなその表情。いいんだよ。とりあえず一歩一歩夢に向って進んでいこうじゃないか。


お前の夢…僕らにも分けてくれよと「お前の夢って何?」って聞いてみたんです。応援したいから。すると彼は真顔で、


「俺、芸能人になりたい。」


とか言い出したんです。


止まったね、時間(トキ)が。新手のスタンド使いかと思った。DIO様かと思った。

予想していなかった夢にインド人もビックリしてインポになる空気。一瞬ギャグかと思ったけど目がマジでした。だって水平線見てるもの。むしろ水平線の向こう側を見てる。彼は本気だ。

 

いやまて落ちつけと冷静になります。彼は芸能人と言っただけだ。芸能人といってもいろいろだ。お笑い芸人やお笑い芸人。それにお笑い芸人だっています。この体格を生かせばきっと良い一発ギャグが出来ることでしょう。


きわめて冷静に、どんな芸能人になりたいのかを聞くと

織田裕二みたいな俳優」

というラブサンバディーな答えが返ってきた。


圧倒的に真顔すぎて凛々しかった。眉毛とかちょっとつながって見えた。彼の瞳は水平線の向こうどころか、空に輝く星を見ているようだ。怒涛の星屑ロンリネス。書いてて意味すらわからない。

 

駄目だ。こいつは現実を見ていない。他の仲間達も笑いを堪えている。その時僕は思った。


いくら夢をもっていても、今の現実をしっかり受け入れていないといけないんだなと。

 

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夢を持つという事

 今の世の中、夢という言葉を安易に捉えすぎているのではないだろうか。夢を持っている人は素晴らしい、持ってない人はだらしない。極端に言ってしまえば、そんな風潮のある現代。それゆえに安易に自分には夢があると口に出してしまう。けどその夢は本当に夢と呼べるものなのだろうか


プロのサッカー選手が夢ならば、人の倍以上練習すればいい
世界一周旅行が夢ならば、毎月少しづつでもお金を貯めればいい

 

別に彼がポスト織田裕二になれないと言いたいわけじゃない。ただ、夢を語るには<理想の自分>を描きつつも<現在の自分>をしっかり把握している必要があるんだと思う。

 

単に「~になりたい」「~が欲しい」って言っているだけなのは、ただの願望であって夢ではない


つまり、理想の自分に対して少しでも近づこうと努力してこそ、初めて夢があると言えるのではないだろうか。


いくらいつもふざけあっている僕等だって、必死になって夢を追いかけている人を笑ったりはしない。彼が本当の意味で夢を追いかけてる人間なら僕等も笑ったりはしないのだ。ただ言いきれるのは、彼は芸能人に…少なくとも織田裕二のあとを継げるような努力を残念ながらしていない。今現在、一目瞭然でしていない。だって、


こいつが今食ってるの、今日3個目のクレープなんだもの。


痩せる気がないどころか、太る気しかない。縁日に行ってクレープ屋しかなくてもそんなに食べない。はちきれんばかりの下っ腹を見せながら、最後の締めにダイエットコーラで流しこむという傍若無人ぷり。いやそこだけダイエット感だされても困るわ

 

そんな姿を見せつけられて僕が思うことは1つだけ。

 

こいつは変われないな、と。

 

織田裕二はおろか、三宅裕二のあとも継げないであろうトミー。まずはその有り余る甘い物への食欲と、自分の容姿への自信を何か別の力へ変えていけるように一歩ずつ頑張って。それが夢への最短距離だ。

 

その後、彼の暴走は翌日の昼まで続き、僕等は心身共に疲れ果てて帰宅することになった。そして、わだかまりを抱え、それをうまく言葉にできない当時の僕らと、現実を見てないトミーは疎遠になっていき、いつのまにか交流がなくなっていった。

 

その途絶えた交流は十数年経った今もそのままだ。

 

ただ時折思い出すのだ、海岸でクレープを頬張る彼の食いっぷりを。思い出の中でたくさんのクレープを頬張る彼は普段の数倍輝いて見えた。もしかしたらこういう大食いキャラで売れば、ホンジャマカ石塚のあとなら継げるかもしれない

 

そんなくだらない妄想がお台場の砂浜にさざめく波と共に打ち寄せては消えていく、

小さな夏の日の思い出が僕にはある。